相続対策として、賃貸マンションや一棟アパートを個人で買う。一般に、現金より相続税の評価額が低くなりやすいからだ。土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に評価され、貸家・貸家建付地に当たれば借家権割合などに応じた減額も入る。
この前提が、2027年から変わる方向にある。2025年12月の税制改正大綱で見直しが示され、2026年9月18日、国税庁が「貸付用不動産の評価について」の通達案を公表した。意見募集は10月18日までだ。
通達案の骨子は2つある。相続・贈与の前5年以内にお金を払って取得した貸付用不動産は、通常の取引価額(時価)を基に評価する。不動産小口化商品は、買った時期にかかわらず時価で評価する。いずれも2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される。
この記事では、通達案の原文をもとに、対象・計算方法・既に持っている物件の扱い・法人で持つ場合との違いを整理する。見るべきは「いつ買ったか」ではない。相続や贈与が起きる日から数えて、5年以内かどうかだ。
この記事が役に立つ方
- 相続対策として、個人で賃貸不動産や不動産小口化商品を購入した、または検討している
- 不動産会社や金融機関から、2026年中の購入や贈与を勧められている
- 親の代から持つ土地に、賃貸物件の新築を計画している
2027年から、5年以内に買った貸付用不動産は「時価」を基に評価する
これまで、個人が持つ賃貸不動産は、財産評価基本通達のルールで評価してきた。土地は路線価を基にした自用地の価額から、借地権割合×借家権割合×賃貸割合の分を差し引く(貸家建付地)。建物は固定資産税評価額から借家権割合の分を差し引く(貸家)。
この評価額は、市場で売れる価格より低くなることが多い。買った直後でも、購入価格の半分前後の評価になる物件がある。この差を使って相続税を大きく減らす購入が問題視されてきた。2022年4月19日の最高裁判決では、個別の事情の下で通達どおりの評価が租税負担の公平に反するとされ、総則6項に基づく鑑定評価額での課税が適法とされた。
2024年からは「居住用の区分所有財産」、つまり分譲マンションの1室の評価が見直された。ただ、一棟もののアパートや賃貸ビルはその対象外だった。今回の通達案は、その趣旨を「市場価格と相続税評価額との乖離等の実態を踏まえ、評価の適正化とともに、予測可能性の向上を図る」と説明している。
これまでは、どの取引が否認されるかを個別に判断する総則6項が中心だった。今回は、5年という期間と計算方法を通達で明文化する点が大きい。
対象は「5年以内に、対価を払って取得・新築した」貸家と貸家建付地
通達案の対象は、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した貸付用不動産だ。課税時期とは、相続なら亡くなった日、贈与なら贈与を受けた日をいう。
- 貸付用不動産:全部または一部を貸している家屋と、その敷地(いわゆる貸家と貸家建付地)
- 取得の時期:原則として引渡しの時
- 対価を伴う取引:購入や新築。相続や贈与で受け取った不動産でも、それだけで対象外にはならない(5年以内に購入・新築されたものは含まれうる)
一方、次のものは対象から外れる。
- 収用・交換・換地・一定の事業用資産の買換えなどの特例を使って取得した不動産のうち、取得価額が譲渡価額の120%以下であることなど、通達案の条件を満たすもの(課税上の弊害がない場合)
- 5年より前から持っている家屋や、5年以内に相続等で受け取った家屋の増築・改築の部分
- 通達の制定日までに、5年より前から持っている土地、または5年以内に相続等で取得した土地に新築した家屋(建築中を含む)
最後の経過措置は、以前から持っている土地や相続した土地にアパートを建てる計画に関係する。「建築中」とは、制定日までに請負契約を結び、工事が行われ、代金の一部でも支払っている状態とされる。制定日はまだ決まっていない。
評価額は、取得価額を基にした金額の80%で計算できる
原則は「課税時期における通常の取引価額」だ。ただし、買ったときの価格が適正な価格だった場合は、次の金額の80%で評価できる。
土地等:取得価額 × 地価変動率 × 80% / 家屋等:(取得価額 − 償却費の合計額または減価の額)× 80%
- 取得価額には、購入代金のほか改良費・設備費を含む
- 地価変動率は「課税時期の年の評価基準額 ÷ 取得時の年の評価基準額」。評価基準額は路線価(なければ倍率方式の価額)で、それが不適当なら公示価格など公的な価格情報を使う
- 償却費は、法定耐用年数による定額法で計算し、1年未満の端数は1年とする
このため、5年以内なら、評価額は購入価格を基にした水準になる。貸家建付地・貸家としての減額の代わりに、80%を掛けるという整理だ。地価が上がれば評価額も上がり、建物は償却の分だけ下がる。
なお、取得価額が当時の適正な価格から離れている場合は、80%の計算は使えず、通常の取引価額そのもので評価する。地価の著しい変動など、この方法によりがたい事情がある場合も、その事情を考慮して評価するとされている。
仮の計算:2億円の一棟アパートは、評価額がこれだけ変わる
個人が一棟アパートを現金で買い、2年5か月後に相続が起きた場合を、仮の数字で比べる。
- 2025年1月に2億円で購入。内訳は土地1億2,000万円、建物8,000万円(鉄筋コンクリート造、耐用年数47年、定額法の償却率0.022)
- 2027年6月に相続。償却期間は2年5か月の端数を切り上げて3年
- 土地の路線価評価は8,000万円、建物の固定資産税評価額は4,000万円、借地権割合60%、借家権割合30%、満室(賃貸割合100%)
- 路線価は購入時と相続時で変わらない(地価変動率1.0)。借入れ、小規模宅地等の特例、諸費用は考えない
| 項目 | これまでの評価 | 通達案(80%の計算) |
|---|---|---|
| 土地 | 6,560万円 | 9,600万円(1億2,000万円×80%) |
| 建物 | 2,800万円 | 5,978万円(7,472万円×80%) |
| 合計 | 9,360万円 | 1億5,578万円 |
| 現金2億円のままとの差 | −1億640万円 | −4,422万円 |
※仮の条件による単純計算です。これまでの評価は、土地8,000万円×(1−60%×30%×100%)、建物4,000万円×(1−30%)。通達案の建物は(8,000万円−8,000万円×0.022×3年)×80%。実際の評価額は物件・地域・賃貸状況・通達の確定内容によって異なります。
同じ物件でも、評価額は約6,200万円高くなる。仮に限界税率40%を掛けただけの参考値で、税額の差は約2,500万円になる(実際の税額は基礎控除や債務、相続人ごとの取得額で変わる)。
ただし、80%を掛けるため、現金のまま持つよりは評価額が低くなる。見直し後も、賃貸不動産の評価が時価の満額になるわけではない。
不動産小口化商品は、買った時期にかかわらず対象になる
不動産特定共同事業の契約や、分割された信託受益権など、不動産を小口に分けた商品は「特定小口化商品」として別に定められた。こちらは5年の期間制限がなく、何年前に買ったものでも時価で評価する。
評価には、事業者が示す価格情報を使える。通達案では、次の金額のうち、原則としてP1を使い、P2・P3が明らかなら3つのうち最も低い金額によってもよいとされる。
- P1:事業開始時に設定された元本等相当額の90%(課税時期前5年以内に始まった事業は、土地の地価変動や建物の償却を反映して修正した金額の95%)
- P2:課税時期の精通者意見価格
- P3:課税時期前1年以内の鑑定評価額の95%
元本等相当額とは、出資額そのものではなく、商品価格のうち貸付用不動産の価格に当たる部分をいう。仮に、課税時期の5年より前に始まった商品で、元本等相当額が1億円なら、P1は原則9,000万円になる。小口化商品を相続対策として持っている場合は、2027年以後の評価額を、事業者の報告書や価格情報で確認しておきたい。
既に持っている物件も、相続の時期によっては対象になる
見落としやすいのが、5年の数え方だ。5年は「通達ができてから」ではなく、相続や贈与が起きた日からさかのぼって数える。
たとえば2023年に買った賃貸アパートは、相続が2027年に起きれば5年以内に入る。2026年中に買った物件も同様だ。判定は年単位ではなく、引渡しの日と相続・贈与の日で行う。いま持っている物件が対象かどうかは、取得日と、将来の相続・贈与の時期で決まる。
生前贈与も同じだ。2027年1月1日以後に、5年以内に買った賃貸物件を子に贈与すれば、新しい評価の対象になる。2026年12月31日までの贈与には、今回の通達案は適用されない(総則6項による個別の判断は別に残る)。ただし、贈与の時期を急ぐかどうかは、生前贈与の7年ルール(加算期間は経過措置を経て段階的に延びる)や、贈与税の負担とあわせて判断したい。
「年内に駆け込みで買えば間に合う」という提案には注意が要る。2026年に買っても、その引渡しから5年以内に相続が起きれば対象になる。適用開始日は、購入の締切ではない。
自社株の純資産価額の計算には適用しない。ただし3年ルールと総則6項は残る
通達案は、非上場の自社株を純資産価額方式で評価するとき(財産評価基本通達185)の会社の土地・家屋には、今回の定めを適用しないと明記している。法人が持つ不動産には、従来どおり取得から3年以内なら通常の取引価額で評価する財産評価基本通達185のルールが適用される。
このため「法人で買えば5年ルールを避けられる」という説明が出てくるかもしれない。ただ、法人で買えば効果が出るのは純資産価額方式の部分だけで、含み益や評価方式の割合でも効き方が変わる。詳しくは法人の不動産購入と自社株評価の3年ルールで整理している。
また、通達の定めどおりに評価することが著しく不適当な場合には、総則6項による時価課税の可能性も残る。5年を過ぎた物件や法人の物件でも、取引の目的・経緯・評価額と時価の開きなどから、個別に判断される可能性がある。
2026年のうちに確認したい5つのこと
- 持っている賃貸物件の取得日。引渡しの年月日を確認し、想定する相続・贈与の日から5年以内に当たるかを確認する
- 小口化商品の有無と元本額。取得時期に関係なく対象になるため、価格情報の出どころを確認する
- 新築計画と通達制定日の関係。5年より前から持つ土地への新築は、契約・着工・支払いの時期を確認する
- 贈与の予定。2026年中の贈与と2027年以後の贈与で、評価がどう変わるかを試算する
- 購入の目的と出口。賃料収入、借入れ、売却の予定を、評価額と切り離して説明できるか
通達案は意見募集中で、最終的な内容は変わる可能性がある。確定した通達が公表されたら、顧問税理士と試算をやり直したい。不動産の購入が、家族に最終的に残るお金を増やすかどうかは、社長の手取りを増やす方法で書いた「出口」の考え方と同じく、評価額とは別の計算になる。
よくある疑問
Q. 貸付用不動産の評価見直しは、いつから適用されますか?
通達案では、2027年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用するとされています。2026年10月時点では意見募集中の案の段階で、確定した通達は公表されていません。
Q. 5年以上前に買った賃貸アパートも、時価で評価されますか?
相続や贈与の日から数えて5年より前に取得した貸付用不動産は、通達案の1項の対象外で、これまでどおり路線価等で評価されます。ただし、不動産小口化商品は取得時期にかかわらず対象です。また、総則6項による個別の判断は残ります。
Q. 相続した土地にアパートを建てる場合も対象になりますか?
建物を新築すれば「対価を伴う新築」に当たり、新築から5年以内の相続・贈与は原則として対象です。ただし、通達の制定日までに、5年より前から持つ土地(5年以内に相続等で取得した土地を含む)に新築した家屋、または建築中の家屋は除かれます。建築中かどうかは、契約・工事・支払いの状況で判定されます。
「いつ買ったか」ではなく「相続の日から5年以内か」
今回の見直しは、賃貸不動産を使った相続対策そのものを禁止するものではない。ただ、買ってから5年以内の相続・贈与では、評価額は購入価格を基にした金額の8割が目安になる。小口化商品は、期間に関係なく価格情報で評価される。
相続の時期は選べない。いま持っている物件と、これから勧められる物件について、相続が2年後に起きた場合の評価額を一度出しておきたい。