本業の会社は順調で、役員報酬も上がってきた。個人名義の賃貸不動産や株式も増えてきた。

そのころに出てくるのが「資産管理会社を作ったほうがいい」という話だ。そして多くの経営者が、同じ質問をする。「資産管理会社は、年収いくらから作るものなのか」。

この質問に、一つの金額で答えることはできない。所得の額は判断材料の一つにすぎないからだ。設立してから毎年かかる固定費、社会保険、会社に入ったお金を個人が使うときの税金、そして将来の相続。これらを並べて初めて、作る意味があるかどうかが見えてくる。

この記事では、資産管理会社の種類と、メリット・デメリットを整理する。そのうえで「いくらから」を判断するための4つの数字を示す。

この記事の方向を示しておく。資産管理会社は、会社に入れたお金の使い道と出し方まで決まっている人ほど効果が出やすい。逆に、そこが白紙のまま作ると、維持費だけが残ることがある。

この記事が役に立つ方

  • 個人名義の不動産収入や配当が増え、所得税の負担が重くなってきた
  • 資産管理会社の設立を勧められたが、自分に合うのか判断できない
  • 家族への資産の渡し方を、そろそろ考え始めたい

資産管理会社は、資産の持ち主を個人から会社に替える仕組み

資産管理会社という法律上の区分があるわけではない。一般には、社長や家族が出資して、不動産や株式などの資産を保有・管理させる会社を指す。多くはオーナー一族が株主の同族会社になる。

仕組みはシンプルだ。資産から生まれる家賃や配当を、個人ではなく会社の収入にする。会社は経費を差し引いた利益に法人税等を払い、残ったお金を役員報酬や配当として家族に渡す。

ここで押さえておきたいのは、会社に入ったお金は、そのままでは個人のお金ではないという点だ。個人が使うには、役員報酬・配当・退職金などの出口を通る必要がある。出口ごとに税金がかかる仕組みは、社長の手取りを「お金の出口」で考える記事で整理したとおりだ。

不動産型と株式型では、効果も論点も違う

資産管理会社は、持たせる資産によって大きく2つに分かれる。

種類主な収入よく検討される使い方主な論点
不動産型家賃収入個人の不動産所得を会社に移す。建物だけを会社に移す方式や、管理を会社に委託する方式もある移転時の譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税。株価評価で土地保有特定会社に当たるか
株式型配当・売却益本業会社の株式や上場株式を会社に保有させる株価評価で株式等保有特定会社に当たるか。本業の持株会社化との違い

※2026年9月時点の一般的な整理です。実際の方式は資産の状況により異なります。

本業会社の株式を持たせる形は、実質的には持株会社(ホールディングス)の論点と重なる。ホールディングス化のメリット・デメリットで別に扱っている。

メリットは所得の分散、経費の整理、承継の設計

資産管理会社のメリットとしてよく挙げられるのは、次の3つだ。

1つ目は所得の分散。所得税は累進課税で、課税所得900万円を超える部分は33%、1,800万円を超える部分は40%、4,000万円を超える部分は45%になる(住民税10%が別にかかる)。一方、資本金1億円以下の法人の法人税率は、年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%だ(2026年9月時点、法人住民税・事業税は別)。個人に集中していた所得を会社に移し、会社から家族に役員報酬を払えば、税率の低い段階を複数人で使える形になる。

2つ目は経費と記録の整理。会社として事業を営む以上、管理業務に必要な支出は会社の費用として扱える。ただし、個人的な支出を会社の経費にすることはできない。会社の帳簿が整うこと自体を、メリットとして挙げる人もいる。

3つ目が相続・承継の設計だ。資産を会社に持たせると、相続の対象は個々の不動産や株式ではなく「資産管理会社の株式」になる。設立時から子どもが出資しておけば、その後に会社の中で増えた価値は、子どもの持分にも反映される。財産を「現物」ではなく「株式」で動かせるため、分け方の選択肢が増える。

ただし、3つとも効果の大きさは個別の事情で大きく変わる。とくに家族への役員報酬は、勤務の実態に見合う額であることが前提になる。

デメリットは維持費、社会保険、お金の出しにくさ

デメリットは、設立した年から毎年発生するものが多い。

  • 法人住民税の均等割。利益が出ていなくてもかかる。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人の標準税率は、道府県民税2万円と市町村民税5万円の合計7万円だ(自治体により異なる)
  • 税理士報酬・申告の手間。個人の確定申告に加えて、法人の決算・申告が毎年必要になる
  • 社会保険。法人の事業所は、事業主のみでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になる。役員報酬を払えば、その会社でも加入手続きが必要になり、本業の会社と両方で報酬を受ける場合は、報酬月額を合算して保険料が決まる
  • 移転のコスト。個人の資産を会社に売る場合、個人側に譲渡所得の課税が生じることがあり、不動産なら登録免許税や不動産取得税もかかる
  • お金の出しにくさ。会社に貯まった利益を個人が使うには、報酬・配当・退職金のいずれかを通る。配当は法人税を払った後の利益から出すため、二重に課税される出口になる

固定費と移転コストは、節約できた税額と比べる必要がある。税率差だけを見て設立すると、維持費に負ける年が続くこともある。

同族会社の行為計算否認と株価評価が、見落とされやすい

資産管理会社の多くは同族会社だ。同族会社には、税務上の特別な規定がある。

法人税法132条、所得税法157条、相続税法64条には、同族会社の行為や計算で、それを認めると税負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき、税務署長がその行為や計算にかかわらず税額を計算できる、という規定がある。たとえば、実態に比べて高すぎる管理料を個人から会社に払う、相場とかけ離れた賃料で貸し借りをする、といった取引は、この論点が問題になりうる。取引の条件は、第三者との取引でも説明できる水準にしておく必要がある。

もう一つが株価評価だ。資産管理会社の株式は非上場株式なので、相続や贈与のときは国税庁の財産評価基本通達に沿って評価する。資産管理会社は従業員が少なく小会社に区分されやすく、その場合は原則として純資産価額方式で評価される。純資産価額方式では、会社が課税時期前3年以内に取得した土地・建物は「通常の取引価額」で評価する決まりがある。取得したばかりの不動産の評価は、個人で持つ場合と同じようには下がらない。

また、総資産に占める土地や株式の割合が一定以上になると、「土地保有特定会社」「株式等保有特定会社」として、原則と異なる評価方法が適用される。詳しくは自社株の相続税評価額の仕組みで整理している。

なお、個人が取得した貸付用不動産の評価については、令和8年度税制改正の大綱で、課税時期前5年以内に取得・新築したものを通常の取引価額で評価する見直しが示された。令和9年1月1日以後の相続等に適用する方針とされている。「不動産を買えば評価が下がる」という前提は、個人でも会社でも見直しが進んでいる分野だ。

「いくらから」は、所得額でなく4つの数字で判断する

設立の目安として「所得が○○万円を超えたら」という話を聞くことがある。けれど、それは一定の前提を置いた一例にすぎない。自分のケースで判断するには、次の4つを数字で書き出す。

  1. 会社に移せる所得はいくらか。家賃や配当から、借入の利息・減価償却・管理費を引いた額
  2. その所得に、いま個人で何%の税率がかかっているか。ほかの所得と合算した後の段階で見る
  3. 会社の固定費は年いくらか。均等割、税理士報酬、社会保険の増加分など
  4. 会社に残るお金を、いつ・誰に・どの出口で渡すか。家族の役員報酬、退職金、配当、相続時の株式

仮に、次の前提で考えてみる。

  • 個人のほかの所得により、移す所得はすべて所得税33%+住民税10%の段階にある
  • 会社では、移した所得がすべて年800万円以下の部分に収まり、法人税15%がかかる
  • 法人住民税の法人税割・事業税・地方法人税、社会保険、移転コスト、配当などの出口の税金は無視する
会社に移す所得個人のままの税(43%)会社での法人税(15%)差
300万円129万円45万円84万円
600万円258万円90万円168万円

※仮の条件による単純計算です。実際には無視した税金や費用が差を小さくします。

この差から、3の固定費を引き、さらに4の出口でかかる税金を引いた残りが、実際の効果になる。表の「差」は上限に近い数字で、そのまま手元に残るわけではない。4が決まらないと、この計算は最後まで終わらない。

設立を決める前に書き出しておきたいこと

4つの数字のほかに、次の点を確認しておくと判断がぶれにくい。

  • 家族は会社でどんな業務を担うか。報酬と業務の内容を説明できるか
  • 不動産を移す場合、土地も移すのか、建物だけか、管理委託にとどめるか
  • 移転時の譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税の見積もり
  • 借入がある場合、金融機関は会社への移転に応じるか
  • 会社の株主構成を最初からどうするか。後から変えると贈与や譲渡の課税が絡む
  • 本業の会社で事業承継税制を使う予定があるか。資産管理会社に当たる会社は、原則として事業承継税制の対象外になる

最後の点は見落とされやすい。事業承継税制でいう資産管理会社は、有価証券や自ら使用していない不動産、現預金などの割合が総資産の70%以上の会社(資産保有型会社)や、それらからの運用収入が総収入の75%以上の会社(資産運用型会社)を指す。本業の会社に資産を寄せすぎると、この区分に近づくことがある。

よくある疑問

Q. 資産管理会社は、年収いくらから作るのが一般的ですか?

一般的な基準額はありません。移せる所得の額、いま個人でかかっている税率、会社の固定費、会社に残るお金の出し方によって、損益の分かれ目は変わります。上の4つの数字を書き出したうえで、顧問税理士に複数年の試算を依頼するのが現実的です。

Q. 資産管理会社のデメリットで、後から気づくことが多いのは何ですか?

社会保険とお金の出しにくさです。役員報酬を払うと社会保険の手続きが必要になり、本業の会社と報酬を合算して保険料が決まります。また、会社に貯まった利益を個人で使うには、報酬・配当・退職金などの出口を通るため、そのたびに税金がかかります。

Q. 資産管理会社を作れば、相続税対策になりますか?

相続の対象が個別の資産から会社の株式に変わるため、分け方や渡し方の選択肢は広がります。一方、株式の評価は財産評価基本通達で決まり、取得3年以内の不動産や資産構成による特定の評価会社の扱いなど、評価が下がらない要因もあります。効果は個別の試算で確認する必要があります。

作るかどうかは、会社に入れたお金の行き先で決まる

資産管理会社の話は、どうしても「税率の差」から始まる。けれど、会社に入ったお金は、いずれ役員報酬・配当・退職金・相続のどこかを通って家族に届く。

いくらから作るかを決めるのは、所得の額ではなく、会社に入れたお金をどこから出すかの計画だ。

いま個人名義で持っている資産は、10年後、誰の名義で、どの形で持っていたいだろうか。その答えが書ければ、資産管理会社が必要かどうかも見えてくる。