決算書を開くと、会社の預金は数千万円ある。利益も毎年出ている。

一方で、社長個人の口座はそれほど増えていない。役員報酬を上げれば増えるはずだが、上げるほど税金と社会保険料も増える。

多くのオーナー経営者が、この状態で止まっている。「会社にはお金があるのに、自分が使えるお金が増えない」。

原因は、役員報酬の金額だけで手取りを考えていることにある。会社のお金が社長の手元に届く道は、役員報酬のほかにもいくつかある。そして道ごとに、かかる税金の種類も重さも違う。

この記事では、会社から個人へお金が動く道を「出口」と呼ぶ。社長の手取りは、額面の報酬額ではなく、どの出口を、どの組み合わせで使うかで決まる。

この記事が役に立つ方

  • 会社に利益と預金は残っているが、個人の手取りが増えている実感がない
  • 役員報酬をいくらにするか、毎年なんとなく決めている
  • 退職金や承継のことを、まだ具体的に考えていない

会社のお金は、6つの出口のどれかを通って個人に届く

会社のお金が、社長や家族の手元に届く主な出口は次の6つだ。

出口会社側の扱い受け取る側の課税
① 役員報酬定期同額給与などの要件を満たせば損金給与所得。所得税(5〜45%)+住民税10%の累進課税。社会保険料もかかる
② 役員退職金不相当に高額な部分を除き損金退職所得。退職所得控除を引いた額の2分の1が課税対象(役員の勤続5年以下は2分の1なし)
③ 配当損金にならない(法人税を払った後の利益から出す)配当所得。持株割合などにより課税方法が異なる
④ 社宅・出張旅費など規程と実態があれば会社の費用要件を満たせば給与として課税されない
⑤ 家族への報酬勤務の実態に見合う額なら損金家族それぞれの所得として、それぞれの税率で課税
⑥ 共済など将来の受け取り(小規模企業共済は個人が掛金を払う)掛金は所得控除。受け取り方により退職所得・公的年金等として課税

※2026年9月時点の一般的な取扱いです。個別の適用は要件や状況によって異なります。

役員報酬だけを動かしても、使っているのは6つのうち1つにすぎない。役員報酬は、出口のなかで最も税率が高くなりやすい道でもある。

役員報酬は、上げるほど1円あたりの手取りが減っていく

所得税は累進課税で、課税所得に応じて5%から45%までの7段階に分かれる。住民税の10%と合わせると、課税所得4,000万円を超える部分は最高55%になる(復興特別所得税を除く)。課税所得1,800万円を超える部分でも、合計50%だ。

つまり、報酬を増やした分の半分近くが税金になる領域がある。さらに社会保険料がかかる。

社会保険料には上限がある。厚生年金は標準報酬月額65万円、健康保険は139万円が上限だ(2026年9月時点)。そのため高い報酬帯では、報酬を増やしても社会保険料はあまり増えない。一方、厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引き上げられ、2029年9月には75万円になる予定だ。高い報酬を出している会社ほど、負担は今後増える。

また、役員報酬には変えられる時期の制限がある。損金にするための「定期同額給与」は、原則として事業年度の開始から3か月以内に改定し、その後は毎月同じ額を支払う必要がある。期の途中で利益が伸びたからといって、報酬を上げて調整することは基本的にできない。

ここから言えるのは、役員報酬は「上げるほど得」でも「下げるほど得」でもないということだ。法人税の税率と、個人の税率・社会保険料の負担が釣り合う水準を、年ごとではなく数年単位で探す必要がある。

会社に残したお金も、いずれどこかの出口を通る

報酬を抑えて会社に利益を残せば、その部分には法人税がかかる。中小法人の場合、所得800万円を超える部分の実効税率はおおむね30%台前半で、最高55%の個人の税率より低い。

ここで「会社に残したほうが得だ」と結論を出すと、半分しか見ていないことになる。会社に残したお金は、社長が使うまでは社長のお金ではない。使うには、いずれ6つの出口のどれかを通る必要がある。

たとえば配当で出す場合、法人税を払った後の利益から支払い、受け取った社長の側でもう一度課税される。オーナー経営者のように持株割合が高い株主は、配当が総合課税の対象になり、給与などと合算して累進税率がかかる。法人税と所得税が二重にかかる出口だ。

会社に残すかどうかは、それ自体では答えにならない。残したお金を、最終的にどの出口から出すかまで決めて、初めて比べられる。

役員退職金は、会社のお金を個人に移す最も大きな出口

6つの出口のうち、税負担が軽くなりやすいのが役員退職金だ。退職所得は、次の計算で課税対象の金額が決まる。

(退職金 − 退職所得控除額)× 2分の1 = 課税される退職所得

退職所得控除額は、勤続20年以下なら1年につき40万円(最低80万円)、20年を超える部分は1年につき70万円だ。

仮に、役員として20年勤めた社長が3,000万円の退職金を受け取るとする。退職所得控除は800万円なので、課税される退職所得は(3,000万円−800万円)×2分の1=1,100万円になる。3,000万円を役員報酬として受け取れば、全額が給与所得として累進課税の対象になる。同じ3,000万円でも、出口によって課税対象の大きさがここまで変わる。

ただし条件がある。

  • 役員としての勤続年数が5年以下の場合、2分の1の計算は適用されない
  • 会社側では、業務内容や勤続年数などに照らして不相当に高額な部分は損金にならない
  • iDeCoなどの一時金を先に受け取っている場合、退職所得控除の計算で勤続期間の重複が調整される。2026年1月からは、この調整の対象になる期間が延びた

退職金の年は、会社が大きな赤字になりやすい年でもある。繰延型の節税商品の出口をこの年に合わせる設計がよく使われるのは、そのためだ。退職金は「辞めるときに考えるもの」ではなく、何年も前から資金と時期を準備する出口になる。

社宅と出張旅費は、規程と実態があって初めて出口になる

社長が個人で払っている支出のなかには、会社の費用として支払えるものがある。代表的なのが社宅と出張旅費だ。

社宅は、会社が借りた住宅を役員に貸し、役員が一定の計算で求めた「賃料相当額」以上の家賃を会社に払っていれば、給与として課税されない。個人が同じ家を自分で借りる場合と比べて、家賃の一部を会社の費用で賄える形になる。

出張旅費も、旅費規程に基づいて支払う、通常必要と認められる範囲の旅費や日当は、原則として受け取る側で課税されない。

どちらも前提がある。社宅は賃料相当額の計算と家賃の支払いの記録が必要で、住宅の規模によって計算方法が変わる。旅費は規程を作り、実際の出張と金額を対応させておく必要がある。規程のない支払いや、実態と合わない金額は、役員への給与とみなされるおそれがある。

家族への報酬は、仕事の実態に見合う範囲で

配偶者や子どもが会社の仕事をしているなら、その対価として報酬を支払える。所得は家族それぞれに分かれ、それぞれの税率で課税されるため、社長1人に所得を集めるより税率の段階が低くなりやすい。

ただし、ここは誤解の多い出口でもある。勤務の実態がない、または仕事の内容に比べて高すぎる報酬は、損金として認められないことがある。業務内容、勤務時間、ほかの役員や従業員との比較で説明できる金額にしておく必要がある。

家族の報酬は「税金を減らすため」ではなく、家族が実際に担っている役割に対価を払う、という順番で設計するのが安全だ。

小規模企業共済は、社長個人の側で使える出口

小規模企業共済は、中小機構が運営する、経営者のための退職金制度だ。従業員数などの要件を満たす会社の役員なら加入できる。

掛金は月1,000円から7万円までで、全額が社長個人の所得から控除される。役員報酬から掛金を払えば、その分の所得税・住民税が軽くなる。受け取るときは、一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として課税される。

会社の損金にはならない点が、第1本で扱った倒産防止共済とは異なる。報酬を受け取った後の、個人側の出口として位置づけると整理しやすい。

自社の配分を決めるための確認リスト

6つの出口をどう組み合わせるかは、会社と社長の状況で変わる。次の項目を書き出すと、判断の材料がそろう。

  1. 社長が毎年、個人として実際に使うお金はいくらか。生活費・住宅・教育・投資を分けて書き出す
  2. 会社の利益は、今後数年でどう動く見込みか。増える・横ばい・変動が大きい、のどれか
  3. 退任や承継の時期の目安はいつか。退職金の年と金額の目安を置けるか
  4. 社宅規程・旅費規程は整っているか。実態と合っているか
  5. 家族は会社でどんな役割を担っているか。報酬と仕事の内容が対応しているか
  6. 会社に残すお金は、何のために残すか。運転資金・投資・退職金原資・承継、のどれか

1で決めた「個人で必要な額」を役員報酬などの出口で確保し、それを超える利益は、6で決めた目的に沿って会社に残す。残す理由が決まっていない利益は、どの出口から出すかも決まっていない。

よくある疑問

Q. 役員報酬は、いくらにするのが一番得ですか?

会社の利益、社長個人が必要とする額、社会保険料、将来の退職金の計画によって変わるため、一律の正解はありません。法人税と個人の税金・社会保険料の合計が小さくなる水準を、数年分の見込みで試算して比べるのが確実です。試算は顧問税理士に依頼できます。

Q. 会社にお金を貯めておけば、いずれ退職金で出せるのでは?

方向としては有効ですが、退職金には「不相当に高額な部分は損金にならない」という制限があり、貯めた額をすべて退職金にできるとは限りません。退職金の目安額と時期を決め、それを超える部分をどう扱うかも合わせて考える必要があります。

Q. 顧問税理士には、どこまで相談できますか?

報酬額の試算、退職金の損金算入の考え方、社宅や旅費の規程など、税務の判断は顧問税理士の領域です。一方、「いつ退任するか」「家族に何を残すか」といった経営者自身の計画は、社長の側から伝えないと設計に反映されません。計画を先に整理しておくと、相談の質が上がります。

「いくらもらうか」から「どの出口から受け取るか」へ

社長の手取りを増やそうとすると、まず役員報酬の金額に目が向く。けれど、報酬は6つある出口のひとつで、しかも税率が高くなりやすい道だ。

手取りを決めるのは、報酬の額ではなく、出口の組み合わせだ。会社に残したお金も、いつかどこかの出口を通る。

いま会社に残っているお金は、どの出口から、いつ、誰の手元に届く予定だろうか。その答えが白紙なら、そこが最初に整理すべきところになる。