取引先の紹介で、海外に販売拠点を作る話が出ている。あるいは、知人から「税率の低い国に会社を作る」話を聞いた。
どちらの場面でも、顧問税理士から最初に出てくる言葉がある。外国子会社合算税制だ。以前は「タックスヘイブン対策税制」と呼ばれることが多かった。
この制度は、日本の会社や個人が支配する外国法人の所得を、一定の場合に日本の株主の所得に合算して、日本で課税する仕組みである。国税庁の資料は、目的を「外国子会社を利用した租税回避を抑制するため」と説明している。
判定では、現地の税率の低さに加えて、現地に事務所があるか、現地で事業を自ら管理しているかという実体の有無が重く扱われる。
この記事では、2026年9月時点の制度をもとに、対象の判定から合算の範囲、申告時の書類までを順に整理する。海外子会社を持たないほうがよいケースと、国内で考えられる選択肢にも触れる。
この記事が役に立つ方
- 海外に子会社や拠点を作る話が出ていて、税務上の論点を知りたい
- すでに海外子会社があるが、合算税制の判定を顧問税理士と話したことがない
- 「低税率の国に会社を置く」という提案を受け、制度上の扱いを確認したい
対象は「日本側が50%超を持つ外国法人」と、その10%以上の株主
この制度の対象になる外国法人を「外国関係会社」という。居住者・内国法人等が、合計で発行済株式等の50%超を直接・間接に保有している外国法人が典型だ。株式の割合に関係なく、残余財産のおおむね全部の分配を請求できるなど、実質的に支配している外国法人も含まれる。
合算の対象になる株主(納税義務者)は、主に次のとおりである。
- 外国関係会社の株式等を直接・間接に10%以上保有する居住者・内国法人
- 直接・間接の保有割合が10%以上の同族株主グループに属する居住者・内国法人
- 外国関係会社と実質支配関係がある居住者・内国法人
中小企業のオーナーが自社の100%子会社として海外法人を作れば、通常は外国関係会社に当たる。社長個人が直接持つ場合も、居住者として対象になりうる。個人が株主の場合の制度(居住者に係る外国子会社合算税制)も別に設けられている。
「会社で持つか、個人で持つか」で対象外になる、という制度ではない点を最初に押さえておきたい。
判定の軸は「租税負担割合」と「現地の実体」の2つ
外国関係会社に当たると、次にどの区分に入るかを判定する。区分は大きく3つある。
| 区分 | どんな会社か | 合算の範囲 | 適用が免除される租税負担割合 |
|---|---|---|---|
| 特定外国関係会社 | ペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト国所在の会社 | 会社単位(所得全体) | 27%以上 |
| 対象外国関係会社 | 経済活動基準のいずれかを満たさない会社 | 会社単位(所得全体) | 20%以上 |
| 部分対象外国関係会社 | 経済活動基準をすべて満たす会社 | 受動的所得の部分のみ | 20%以上 |
※2026年9月時点。財務省「令和8年度税制改正の解説」、国税庁資料をもとに整理。外国金融子会社等の取扱いなど細部は省略しています。
租税負担割合とは、外国関係会社の各事業年度の所得に対して課される外国法人税の額を、その所得の金額で割った割合をいう。20%・27%は、合算を免除するための基準であり、これを下回ったから直ちに合算されるわけではない。下回った場合に、実体や事業の中身を見て区分を決める、という流れになる。
この基準は改正で動いてきた。特定外国関係会社の基準は、内国法人の2024年4月1日以後に開始する事業年度から30%から27%に引き下げられた。検索で見つかる解説記事には、改正前の30%のまま書かれているものもある。
ペーパーカンパニー等は、租税負担割合27%未満なら会社単位で合算される
特定外国関係会社のうち、最も話題になるのがペーパーカンパニーだ。制度上は、次の2つのどちらにも該当しない外国関係会社をいう。
- 主たる事業を行うのに必要な事務所、店舗、工場などの固定施設を持っている(実体基準)
- 本店所在地国で、事業の管理、支配、運営を自ら行っている(管理支配基準)
現地に事務所がなく、意思決定も日本の社長が行っている会社は、この定義に近づく。そうした会社は、租税負担割合が27%以上でない限り、所得の全体が日本の株主側で合算される。
ただし、外国子会社の株式を保有する持株会社など、海外で一般的に使われ、租税回避のリスクが限定的と考えられる一定の会社は、要件を満たせばペーパーカンパニーから除外される。
2026年度(令和8年度)の税制改正では、この分野に次の見直しが入った。改正法は2026年3月31日に公布されている。
- ペーパーカンパニーの除外要件のうち「資産割合要件」について、期末の総資産が零の場合は判定を不要とする
- 累進税率の国で、最高税率を使って租税負担割合を計算できる特例について、著しく不適当と認められる場合は使えないこととする
- 解散した部分対象外国関係会社について、解散後の一定期間は引き続き部分対象外国関係会社とみなす特例を設ける
いずれも、外国関係会社の2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。2つ目の見直しは、実態の伴わない企業誘致を目的とした特殊な累進税率への対応とされている。
経済活動基準は、現地で事業を営んでいるかを4つの角度から見る
ペーパーカンパニー等に当たらず、租税負担割合が20%未満の場合は、経済活動基準で判定する。基準は4つある。
- 事業基準:主たる事業が、株式の保有、無形資産の提供、船舶・航空機の貸付けなど一定の事業でないこと
- 実体基準:本店所在地国に、主たる事業に必要な事務所等を持っていること
- 管理支配基準:本店所在地国で、事業の管理、支配、運営を自ら行っていること
- 所在地国基準または非関連者基準:主として本店所在地国で事業を行っていること。卸売業、銀行業、保険業、水運業など8業種は、主として関連者以外の者と取引していること
1つでも満たさなければ対象外国関係会社となり、所得全体が会社単位で合算される。
中小企業が特に注意したいのは管理支配基準だ。現地に事務所があっても、取締役会の開催、契約の締結、資金の管理がすべて日本で行われていれば、「現地で自ら管理している」と説明するのは難しくなる。登記上の住所と、実際に判断している場所が一致しているかが問われる。
また、非関連者基準の業種で、取引の大半が日本の親会社との間で行われている場合も、基準を満たさないおそれがある。親会社との取引だけで成り立つ海外子会社は、判定上の論点が増えやすい。
基準を満たしても、配当・利子などの受動的所得は部分合算の対象になる
経済活動基準をすべて満たす会社は、部分対象外国関係会社になる。この場合、事業から生じた所得は合算されない。その一方で、一定の受動的所得は、租税負担割合が20%未満なら合算の対象になる。
受動的所得として挙げられているのは、剰余金の配当等、受取利子等、有価証券の貸付けの対価と譲渡損益、デリバティブ取引の損益、外国為替差損益、固定資産の貸付けの対価、無形資産等の使用料と譲渡損益、異常所得などである。
現地で営業活動をしている会社でも、余った資金で有価証券を運用していれば、その運用益は部分合算の検討対象になる。「事業会社だから関係ない」とは言い切れないのは、このためだ。
申告では外国関係会社の決算書などの添付・保存が求められる
一定の外国関係会社については、法人税の申告書に関係書類を添付するか、保存しておく必要がある。2025年度改正後の書類の範囲は、次のとおりである。
- 貸借対照表と損益計算書
- 本店所在地国の法人所得税の申告書の写し
- 企業集団等所得課税規定の適用がないものとした場合の法人所得税の計算明細など
- 株主等の氏名等を記載した書類、出資関連外国法人等の株主等の氏名等を記載した書類
- その他参考となる事項を記載した書類
株主資本等変動計算書と勘定科目内訳明細書は、2025年度改正で範囲から除外された。また、部分対象外国関係会社で部分適用対象金額が2,000万円以下であるなど一定の要件に当たるものは、2024年4月1日以後に開始する事業年度から、添付義務が保存義務に緩和されている。
合算の時期も変わった。内国法人の2025年4月1日以後に開始する事業年度からは、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4か月を経過する日を含む事業年度に合算する(改正前は2か月)。
実務では、現地の決算書と税務申告書を、日本の申告期限に間に合うよう取り寄せる体制が要る。現地の会計事務所との連絡や翻訳の手間も含めて、毎年のコストとして見込んでおきたい。
グローバル・ミニマム課税は、多くの中小企業には直接関係しない
海外子会社の話になると、グローバル・ミニマム課税も話題に上る。これは、各国で最低15%の課税を確保するための国際的なルールで、日本でも法制化されている。
対象は、典型的にはグループの年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループだ。営業利益が年1,000万〜3,000万円程度の中小企業グループが、この基準に届くことは通常ない。
中小企業にとって直接関係するのは、外国子会社合算税制のほうである。ただし、財務省の解説でも、グローバル・ミニマム課税の導入を踏まえて外国子会社合算税制の見直しが続いているとされている。毎年の税制改正で細部が動く分野であることは意識しておきたい。
海外子会社を持たないほうがよいケースと、国内の選択肢
外国子会社合算税制は、実体のない海外法人に利益を置くことを想定した制度である。制度の説明を読むと、海外子会社を検討する前提は「現地で事業をする理由があるか」だとわかる。
次のような状況なら、海外子会社を作らないほうが判断しやすい場合が多い。
- 現地に常駐する人員や事務所を置く予定がない
- 意思決定や資金管理を、日本の社長がすべて行う
- 取引の大半が日本の親会社との間になる
- 現地の決算・税務申告・日本側の書類対応を毎年続ける体制がない
これらに当てはまる場合、海外子会社は合算の対象になりやすいうえ、現地と日本の両方で会計・税務の手間が発生する。
海外の顧客と取引したいだけなら、日本の会社のまま輸出や業務委託で対応する方法もある。社長個人の手取りを考えるなら、役員報酬・退職金・社宅など国内の「出口」の組み合わせを見直すほうが、確認すべき論点ははるかに少ない。
反対に、現地に顧客と従業員がいて、現地で意思決定をする体制が作れるなら、海外子会社は事業上の選択肢になる。その場合も、合算税制の判定を設立前に顧問税理士と確認しておくことが前提になる。
よくある疑問
Q. タックスヘイブン対策税制と外国子会社合算税制は、同じ制度ですか?
同じ制度を指します。租税特別措置法上の正式な名称は「内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例」などで、以前は「タックスヘイブン対策税制」と呼ばれることが多く、現在は国税庁や財務省の資料で「外国子会社合算税制」と呼ばれています。
Q. 租税負担割合が20%以上なら、何もしなくてよいですか?
特定外国関係会社(ペーパーカンパニー等)に当たる場合は、基準が27%になります。また、租税負担割合は外国関係会社の事業年度ごとに計算するため、現地の税制改正や所得の変動で基準を下回る年がないか、毎年の確認が必要です。区分の判定と書類の要否は、顧問税理士に確認してください。
Q. 社長個人が海外法人の株式を持つ場合も、外国子会社合算税制の対象ですか?
居住者が株主の場合にも、同様の制度(居住者に係る外国子会社合算税制)があります。保有割合などの要件に当たれば、外国関係会社の所得が個人の所得に合算される可能性があります。会社で持つか個人で持つかで制度の対象から外れるものではありません。
見るべきは現地の税率ではなく、現地に事業があるかどうか
外国子会社合算税制の判定は、租税負担割合だけで終わらない。事務所、管理支配、取引の相手という、現地で事業が営まれているかどうかの事実が区分を決める。
そして、判定を満たし続けるには、毎年の決算書類と日本側の申告対応が欠かせない。海外子会社は、設立した年だけでなく、持ち続ける年数分の手間と確認を伴う。
その海外法人で、誰が、どこで、何を決めているか。その問いに具体的に答えられるかどうかが、最初の確認点になる。