海外出張のついでに、現地の銀行で口座を開いた。開設の書類には、税務上の居住地国を書く欄があった。「日本」と書いて提出した。
この欄には意味がある。CRS(共通報告基準)という国際的な仕組みにより、日本と情報を交換する国・地域の金融機関は、日本の居住者の口座情報を現地の税務当局に報告し、その情報は年1回、日本の国税庁に提供される。
国税庁が令和6事務年度に外国の税務当局から受け取った日本の居住者の口座情報は、約275万件にのぼる。
この記事では、2026年9月時点の国税庁の資料をもとに、CRSの仕組み、日本の開始時期、交換される情報、海外口座を持つ居住者の申告義務、国外財産調書・国外送金等調書との関係を整理する。見るべきは「海外口座の情報が伝わるかどうか」ではなく、その口座から生じた所得と残高を、毎年正しく申告・報告しているかだ。
この記事が役に立つ方
- 海外の銀行や証券会社に、個人名義の口座を持っている
- 海外口座の利子や配当、売却益を、日本でどう申告するか整理できていない
- 海外で口座を開くときの「居住地国の届出」が何に使われるのかを知りたい
CRSは、金融機関が非居住者の口座情報を報告し、税務当局同士で交換する仕組み
CRSは、OECDが策定した「共通報告基準(Common Reporting Standard)」の略だ。外国の金融口座を利用した国際的な脱税や租税回避に対処するため、自動的情報交換の対象となる口座の特定方法や情報の範囲を、各国で共通化した国際基準である。
流れは次のとおりだ。
- 口座を開く人は、金融機関に税務上の居住地国などを記載した届出書を出す
- 金融機関は、届出書や住所の記録をもとに口座保有者の居住地国を特定し、報告すべき非居住者の口座を選ぶ
- 金融機関は、非居住者の口座情報を自国の税務当局に報告する
- 税務当局は、その情報を、口座保有者の居住地国の税務当局に年1回まとめて提供する
日本の居住者が海外に口座を持てば、日本の居住者はその国から見て「非居住者」になる。海外の金融機関から現地の当局へ、現地の当局から日本の国税庁へと、情報が届く構造だ。
日本では2017年に届出の制度が始まり、2018年から情報交換をしている
日本は、2015年度(平成27年度)の税制改正で「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」(実特法)を改正し、CRSに対応する報告制度を設けた。
- 2017年(平成29年)1月1日:施行。以後に国内の金融機関で口座開設等をする人は、居住地国等を記載した届出書を出す
- 2018年(平成30年):金融機関から初めての報告があり、外国の税務当局との情報交換を開始
- 以後毎年:金融機関は、前年12月31日時点の報告対象の情報を、4月30日までに税務署長へ報告する
国税庁によれば、日本を含む100以上の国・地域がCRSに従った情報交換を実施している。日本とCRS情報を交換できる国・地域は115で、令和6事務年度はそのうち101の国・地域から情報を受け取った。
なお、日本の居住者も、国内の金融機関で口座を開く際に、居住地国として「日本」を記載する必要がある。居住地国が複数ある場合は、そのすべてを記載する。
届出書は形式的な書類ではない。日本の制度では、居住地国が外国である人が、口座開設等の際に届出書を出さなかったり、偽りの記載をしたりした場合、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の定めがある。
交換されるのは、氏名・住所・居住地国・口座残高・利子や配当の受取額など
報告義務を負う金融機関と、報告の対象になる口座・情報は、次のとおりだ。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 報告する金融機関 | 銀行・資金移動業者等の預金機関、生命保険会社等の特定保険会社、証券会社等の保管機関、信託等の投資事業体 |
| 対象の口座 | 預金口座(特定電子マネー商品口座等を含む)、キャッシュバリュー保険契約・年金保険契約、証券口座等の保管口座、信託受益権等の投資持分 |
| 報告される情報 | 口座保有者の氏名・住所、居住地国、外国の納税者番号、口座の種類、新規・既存の区分、口座残高、利子・配当等の年間受取総額など |
※2026年9月時点。国税庁リーフレット「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度について」(令和7年6月、令和8年1月1日以降用)をもとに整理。
CRSは2022年に改訂され、日本では2024年度(令和6年度)の税制改正を経て、2026年1月1日から改訂後の基準に対応した制度が施行された。資金移動業者や一定の電子決済手段・電子マネーが対象に加わるなど、範囲が広がっている。
暗号資産についても、CRSとは別の国際基準(CARF)に基づく報告制度が2026年から施行され、2027年に2026年分の情報交換を始めるとされている。
法人名義の口座にも注意がいる。日本の制度では、投資関連の所得が中心の法人など「特定法人」に当たる法人が口座を開く場合、その法人の実質的支配者の居住地国等も届出書に記載する。
国税庁は、CRS情報を国外財産調書や国外送金等調書と併せて分析している
令和6事務年度に国税庁が外国の税務当局から受け取ったCRS情報は、274万5,374件だった。個人口座が約272万件(残高約9.6兆円)、法人口座が約3万件(残高約8.1兆円)とされている。
国税庁は、受け取ったCRS情報を、国外送金等調書や国外財産調書、すでに持っている他の資料情報と併せて分析し、課税上問題があると見込まれる資産や所得の把握に使っていると公表している。
国税庁の資料には、CRS情報をきっかけに、外国法人から受けた役員報酬と、それを元手にした運用の配当の申告漏れを把握した例などが挙げられている。情報は1つの制度から単独で届くのではなく、複数の資料が組み合わされる。
居住者は、海外口座から生じた所得も日本で申告する
CRSは情報を交換する仕組みであり、税金の計算のルールそのものではない。申告の義務は、所得税法の側で決まっている。
非永住者以外の居住者は、所得が生じた場所が国内か国外かを問わず、すべての所得に課税される。海外の口座で受け取る預金の利子、配当、有価証券の売却益、海外の不動産から入る家賃などは、日本の確定申告の対象になる。外国の税務当局に申告した所得も、日本での申告が必要になる。
海外で源泉徴収などにより税金を納めている場合は、一定の限度内で日本の所得税から差し引く外国税額控除の仕組みがある。控除の限度額は、国外所得の割合などから計算する。
居住者かどうかは、国内に住所(生活の本拠)があるか、引き続き1年以上の居所があるかで決まり、住居・職業・家族・資産の所在などの事実から総合的に判断される。海外で口座を開いただけで、日本の居住者でなくなるわけではない。海外に住む場合の扱いは、非居住者の判定を整理した記事で詳しく扱っている。
残高は国外財産調書、100万円超の送金は国外送金等調書でも報告される
海外口座に関わる情報は、CRSのほかに国内の制度からも集まる。代表的なものが次の2つだ。
| 制度 | 誰が出すか | 何が報告されるか |
|---|---|---|
| CRS | 海外の金融機関(現地の当局経由で日本へ) | 口座保有者・居住地国・残高・利子や配当の受取額など |
| 国外送金等調書 | 送金等を行った金融機関 | 100万円を超える国外への送金・国外からの送金の、送金者・受金者・金額など |
| 国外財産調書 | 本人(12月31日の国外財産が5,000万円超の居住者) | 国外財産の種類・数量・価額・所在など |
※2026年9月時点。国税庁の各制度の資料をもとに整理。
国外財産調書は、本人が出す書類だ。12月31日に国外財産が5,000万円を超える居住者は、翌年6月30日までに提出する。出していれば、申告漏れがあったときの加算税が軽くなり、出していなければ重くなる特例がある。
国外財産調書に書く預金かどうかは、通貨ではなく預け入れた営業所の所在で判定する。海外にある支店の預金は国外財産になり、国内の銀行の国内支店にある外貨預金は対象にならない。判定の詳細は、国税庁の国外財産調書制度のFAQで確認できる。
同じ口座について、海外の金融機関からの報告、国内の銀行からの送金の記録、本人の調書が並ぶことになる。3つの数字が整合しているかどうかが、正しく申告しているかを示す材料になる。
海外口座を持つことが向かない人・注意が必要なケース
海外口座を持つこと自体は、禁じられているわけではない。ただし、次のような場合は、口座を開く前、または持ち続ける前に、手間と負担を見積もっておきたい。
- 利子・配当・売却益を毎年集計し、円に換算して申告する体制がない
- 海外の金融機関から届く明細を、日本の税理士に共有する手順が決まっていない
- 口座の目的が、日本での申告を減らすことになっている
- 国外財産の合計が5,000万円の前後にあり、調書の要否を毎年確認していない
- 法人名義の口座と個人名義の口座を、同じ感覚で使っている
- 海外に移る予定があり、居住者かどうかの判定があいまいなまま口座の届出をしている
3つ目に当てはまる場合は、とくに慎重に考えたい。CRSは、外国の金融口座を利用した国際的な脱税や租税回避に対処するために作られた仕組みだ。口座を開く理由は、事業や生活の必要から説明できるものにしておきたい。
過去の年分に申告していない所得があると分かった場合は、早い段階で税理士と相談し、修正の手順を確認するのが現実的だ。会社や個人のお金の流れ全体の整理は、社長の手取りを出口から考える記事も参考になる。
よくある疑問
Q. CRSはいつから始まり、日本はどの情報を受け取っていますか?
日本では2017年1月1日に報告制度が施行され、2018年から外国の税務当局との情報交換を始めています。受け取る情報は、日本の居住者が海外に持つ口座の保有者の氏名・住所・居住地国、口座残高、利子・配当等の年間受取総額などです。令和6事務年度は約275万件を受け取っています。
Q. 海外口座の利子や配当にも、日本で申告義務がありますか?
非永住者以外の居住者は、国内外で生じたすべての所得に課税されるため、海外口座で受け取った利子・配当・売却益なども日本の確定申告の対象になります。外国で課された税がある場合は、外国税額控除の適用を受けられる場合があります。
Q. 海外口座があると、国外財産調書も出す必要がありますか?
12月31日時点で、海外口座の残高を含む国外財産の価額の合計が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出します。5,000万円以下であれば提出義務はありませんが、口座から生じた所得の申告は必要です。
見るべきは情報が伝わるかではなく、申告と報告の数字がそろっているか
CRSが始まって以降、海外の口座の情報は、毎年決まった流れで日本の国税庁に届いている。国外送金等調書や国外財産調書と合わせて、海外口座は、国内の口座と同じように数字で追える財産になった。
だからこそ問われるのは、口座の有無ではない。そこから生じた所得を申告し、残高を必要な調書に書いているかだ。
いま持っている海外口座について、昨年の利子・配当の合計額と12月31日の残高を、円で答えられるだろうか。その2つの数字が、確認の出発点になる。