会社で役員社宅を借り上げることになった。条件のよい物件が見つかり、契約書を見ると、貸主の住所が海外になっている。家賃は国内の管理会社に振り込む形だ。

このとき、家賃を満額振り込むと、あとで問題になることがある。貸主が非居住者(海外に住む個人)や外国法人なら、借主は家賃から20.42%を源泉徴収して国に納めるのが原則だからだ。

源泉徴収の義務を負うのは、貸主ではなく借主の側だ。一方で、個人が自分や親族の住まいとして借りる場合は、源泉徴収しなくてよいという例外がある。同じ物件でも、会社が社宅として借りるか、個人が自宅として借りるかで扱いが変わる。

この記事では、2026年9月時点の国税庁の資料をもとに、借主の源泉徴収義務、例外の範囲、社宅の場合、納付の手続、源泉漏れのリスク、貸主側の確定申告と納税管理人を整理する。見るべきは振込先ではなく、貸主がどこに住んでいるかと、誰が何のために借りるかだ。

この記事が役に立つ方

  • 会社で借りている社宅や事務所の貸主が、海外に住んでいるかもしれない
  • 海外に住む個人から、住宅や店舗を借りる契約を検討している
  • 自分が海外に移った後も、日本の不動産を貸し続ける予定がある

貸主が海外に住んでいると、借主が家賃の20.42%を源泉徴収する

国税庁によれば、非居住者または外国法人から国内の不動産を借りて賃借料を支払う者は、法人・個人を問わず、支払の際に20.42%を源泉徴収する必要がある。内訳は所得税20%と復興特別所得税0.42%だ。

対象となるのは、国内にある不動産や不動産の上に存する権利の貸付けの対価だ。住宅か事務所か店舗かといった用途では区別されず、例外は次の節の「個人の居住用」に限られる。

なお、2026年度の税制改正で防衛特別所得税が創設され、2027年1月1日以後に生ずる所得からは、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税を合わせて徴収する。国税庁は、合計の税率は変わらず、源泉徴収税額の計算方法にも変更は生じないと説明している。2027年以後も、家賃に掛ける率は20.42%のままだ。

ここで「非居住者」とは、国内に住所がなく、1年以上の居所もない個人をいう。住所は生活の本拠を指し、客観的事実によって判定される。国籍は関係しない。日本人でも、海外に生活の本拠を移していれば非居住者になりうる。

貸主が海外の会社(外国法人)の場合も、同じく20.42%の源泉徴収の対象になる。次の節で見る例外は、貸主ではなく借主の側の条件で決まる。

個人が自分や親族の住まいとして借りるなら、源泉徴収しなくてよい

例外は1つだ。土地や家屋を、自己またはその親族の居住の用に供するために借りた個人が支払う家賃は、源泉徴収の対象にならない。

この例外には、3つの条件が重なっている。

  • 借主が個人であること:会社など法人が借主なら、例外に当たらない
  • 住まいとして使うこと:事務所や店舗として使うなら、個人でも例外に当たらない
  • 住むのが本人か親族であること:従業員など親族以外を住まわせる場合は、この例外の文言に当たらない

個人事業主が、海外に住む貸主から事務所を借りる場合は、源泉徴収が必要になる。家族の住まいとして個人で借りる場合は不要になる。同じ「個人の借主」でも、使い方で結論が分かれる点に注意したい。

会社が借りる社宅は、住むのが社長でも源泉徴収の対象になる

冒頭の場面に戻る。会社が借主となって役員社宅を借り上げる場合、借主は法人だ。住むのが社長本人や家族であっても、居住用の例外には当たらない。家賃から20.42%を源泉徴収し、国に納める必要がある。

役員社宅では、会社が家賃を払い、役員から賃料相当額を受け取る形がよく使われる。賃料相当額の計算や、給与として扱われないための条件は、役員社宅(借り上げ社宅)の仕組みと賃料相当額の計算で整理している。

貸主が非居住者の物件を社宅にする場合、この計算とは別の論点として、貸主への支払から源泉徴収する事務が加わる。社宅の規程や経理の手順に、この確認を入れておくとよい。

社長が個人で借りて住む形にすれば、例外の条件を満たしうる。ただし、その場合は社宅としての扱いがなくなり、手取りへの影響も変わる。借主を誰にするかは、源泉徴収の有無だけで決めず、社長個人の手取り全体から比べる必要がある。

家賃30万円なら、毎月6万1,260円を差し引いて翌月10日までに納める

源泉徴収すると、貸主に振り込む額と国に納める額に分かれる。仮の数字で確かめる。前提は次のとおりとする。

  • 仮に、会社が社宅として月額30万円で借り、貸主は海外に住む個人とする
  • 租税条約による軽減・免除は考えない
  • 共益費・礼金・消費税など、家賃以外の支払は考えない
項目月額年額
契約上の家賃300,000円3,600,000円
源泉徴収する税額(20.42%)61,260円735,120円
貸主に振り込む額238,740円2,864,880円

※仮の条件による単純計算です。実際の税額は、契約内容・支払項目・租税条約の適用の有無などにより異なります。

差し引いた税額は、原則として支払った月の翌月10日までに納める。国外で支払う場合は、翌月末日までとされている。

あわせて、非居住者等に不動産の使用料等を支払った者には、「非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書」を翌年1月31日までに税務署へ提出する手続がある。国税庁は、法定調書で把握した非居住者への支払(不動産賃借料等)の情報を、外国の税務当局と交換している。

貸主が海外に住んでいるかは、契約前と契約中に確かめる

源泉徴収が必要かどうかは、貸主が非居住者かどうかで決まる。ところが、借主の側からは貸主の生活の状況が見えにくい。確認の手がかりとして、次のようなものがある。

  1. 契約書・重要事項説明書の貸主住所:海外の住所が書かれていないか
  2. 管理会社への確認:貸主が海外に住んでいるか、源泉徴収の取扱いをどう案内しているか
  3. 納税管理人の有無:貸主が日本での申告を代わりに行う人を定めているか
  4. 契約途中の変更:貸主が海外に転居した、相続で海外に住む人が貸主になった、などの連絡がないか

とくに4つ目は見落としやすい。契約した時点で国内に住んでいた貸主でも、海外に生活の本拠を移した後に支払う家賃は、源泉徴収の対象になりうる。

管理会社が家賃を受け取る形でも、貸主が誰で、どこに住んでいるかは変わらない。誰が源泉徴収と納付を行うのかを、契約の段階で書面にしておきたい。

源泉漏れは、差し引かなかった税額と加算税を借主が負うことになる

源泉徴収すべき税を期限までに納めなかった場合、借主には不納付加算税がかかる。国税通則法では、税務署から納税の告知を受けた場合などは税額の10%とされている。調査による告知を予知しないで自主的に納めた場合は5%になる。さらに、法定納期限から1か月以内に自主的に納め、期限内に納付する意思があったと認められる一定の場合には課されない。

負担は加算税だけでは終わらない。家賃を満額振り込んでいた場合、借主は差し引かなかった税額そのものを国に納めることになる。その分を海外に住む貸主から回収できるかは、契約や関係次第だ。

上の表の例で、1年分の源泉徴収を漏らしていたとする。借主が納める税額は73万5,120円になり、これに加算税、場合によっては延滞税が加わる。数年分がまとめて見つかれば、さらに大きくなる。

源泉漏れに気づいたときは、早い段階で税理士と相談し、自主的に納付する手順を確認するのが現実的だ。

貸主の側では、源泉徴収で終わらず確定申告と納税管理人が必要になる

ここからは、海外に住む貸主の立場で見る。自分が海外に移った後も日本の不動産を貸し続ける社長にとっては、こちらが当事者の話になる。

非居住者でも、日本国内にある不動産の貸付けによる所得(不動産所得)は、日本で課税される。国税庁は、国内不動産の貸付けの対価は総合課税の方法で税額を計算し、確定申告をする必要がある所得に挙げている。年を通じて海外に住む場合も、国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超えるなら、原則として翌年2月16日から3月15日までに確定申告をする。

借主が差し引いた20.42%は、申告で精算する税の前払いにあたる。国税庁は、この源泉徴収税額の還付を受けるための申告もできると説明している。逆に、個人が住まいとして借りていて源泉徴収されていない家賃も、申告の対象から外れるわけではない。

海外に住みながら申告や納付を行うには、納税管理人を定め、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を納税地の税務署長に提出する。納税管理人は、確定申告書の提出や税金の納付などを代わりに行う人で、個人でも法人でもよい。

海外への移住そのものに伴う税金は、国外転出時課税(出国税)や、非居住者の役員報酬の源泉徴収の記事で整理している。海外に住んでも、日本の不動産から得る家賃には日本の税と手続が残る。

非居住者の物件を借りることが向かない人・注意が必要なケース

貸主が非居住者であること自体は、珍しいことではない。ただし、次のような場合は、契約前に手続の負担を見積もっておきたい。

  • 経理の担当者が少なく、毎月の源泉徴収と翌月10日までの納付を、漏れなく回す体制がない
  • 管理会社が源泉徴収の取扱いを把握しておらず、誰が納付するかを決められない
  • 貸主と連絡が取りにくく、住所の変更や納税管理人の有無を確かめられない
  • 貸主から「源泉徴収なしで満額を払ってほしい」と求められている
  • 貸主の居住国と日本との租税条約で、軽減や免除があると言われているが、届出の手続が確認できない

最後の点について補足する。租税条約によって源泉徴収の扱いが変わる場合でも、条約ごとに内容が異なり、届出などの手続が前提になる。条約の適用は、貸主の説明だけで判断しないほうがよい。

よくある疑問

Q. 非居住者に払う家賃の源泉徴収は、個人の借主にも必要ですか?

法人・個人を問わず必要です。ただし、個人が自己またはその親族の住まいとして借りる場合に支払う家賃は、源泉徴収の対象になりません。個人でも、事務所や店舗として借りる場合は源泉徴収が必要です。

Q. 会社の借り上げ社宅で、貸主が海外に住んでいる場合はどうなりますか?

借主が会社である以上、住むのが役員本人やその家族でも、居住用の例外には当たりません。家賃から20.42%を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納めます。あわせて、非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書の提出も確認してください。

Q. 非居住者の貸主は、源泉徴収されれば確定申告をしなくてよいのですか?

国内不動産の家賃は、源泉徴収されていても総合課税の対象として確定申告が必要な所得に挙げられています。国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超える場合などは、納税管理人を通じて確定申告を行い、源泉徴収された税額を精算します。

見るべきは振込先ではなく、貸主の住む場所と借りる目的

家賃を振り込む先が国内の管理会社でも、国内の口座でも、源泉徴収の要否は変わらない。決め手になるのは、貸主が非居住者かどうかと、借主が誰で、何のために借りるかだ。

そして、源泉徴収は貸主の税を借主が預かる仕組みでもある。漏れたときの負担は、まず借主にかかる。

いま会社で借りている社宅や事務所の契約書に、貸主の住所は何と書かれているだろうか。それを確かめることが、最初の確認になる。