海外に移った後、日本に残していたマンションを売ることにした。あるいは、自社で事務所用の物件を探していたら、売主が海外在住の個人だった。どちらも、オーナー経営者の周りでは珍しくない場面だ。

このとき、税金の手続は売主の側で閉じない。非居住者から日本の不動産を買う人は、原則として代金を払う際に10.21%を源泉徴収し、税務署に納める義務がある。買主が法人か個人かは問わない。

売主の側は、差し引かれた10.21%で終わりではない。不動産の売却益は日本で課税される所得であり、原則として確定申告をして、源泉徴収された額を差し引いて精算する。そのためには納税管理人の届出も要る。

この記事では、2026年9月時点の国税庁の説明をもとに、買主の源泉徴収義務と例外、居住者か非居住者かの判定時期、売主の確定申告と納税管理人、買主と仲介会社が確認しておきたい点を整理する。見るべきは売買代金の額ではなく、誰が差し引き、誰が申告で精算するかだ。

この記事が役に立つ方

  • 海外に住んでいて、日本に持っている不動産の売却を考えている
  • 自社や個人で購入を検討している物件の売主が、海外に住んでいる
  • 非居住者の不動産売却で、源泉徴収と確定申告の関係を確認したい

非居住者が日本の不動産を売ると、買主に源泉徴収の義務が生じる

国税庁によれば、非居住者や外国法人から日本国内にある土地等を購入し、その代金を国内で支払う人は、支払の際に10.21%の税率で所得税等を源泉徴収しなければならない。対象の「土地等」は、土地、土地の上に存する権利、建物とその附属設備、構築物だ。

源泉徴収義務者には、代金を支払う人のすべてが含まれる。法人はもちろん、事業者でない個人も原則として対象になる。不動産の売買で源泉徴収を意識することの少ない個人の買主にとって、見落としやすい義務だ。

10.21%は、所得税10%と復興特別所得税0.21%の合計だ。2027年分以後は内訳が所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税に変わるが、国税庁の資料では、合計税率は所得税率×102.1%で、所得税率10%なら10.21%のままとされている。

ここでいう非居住者は、日本国内に住所がなく、引き続き1年以上居所もない個人をいう。住所は生活の本拠を指し、滞在日数だけで決まるものではない。売主が海外で暮らしていても、生活の本拠が日本にあると判断されれば居住者になる。

源泉徴収が要らないのは、個人が自己居住用に1億円以下で買う場合

例外は一つだけだ。個人が自己またはその親族の居住の用に供するために買い、その対価が1億円以下の場合は、源泉徴収をする必要がない。

買主用途対価源泉徴収
法人問わない問わない必要
個人投資用・事業用など問わない必要
個人自己または親族の居住用1億円超必要
個人自己または親族の居住用1億円以下不要

※2026年9月時点。国税庁タックスアンサーNo.2879、国税庁リーフレット「非居住者等から不動産を『購入した』場合の源泉徴収」をもとに整理。

判定では、次の2つの取扱いが国税庁の質疑応答事例で示されている。

  • 店舗併用住宅:居住用の部分が主であり、対価が1億円以下なら、居住用以外の部分を含めて源泉徴収は不要。家屋の床面積の2分の1以上を居住用にする場合は、居住用として扱うのが相当とされている
  • 共有の物件:1億円を超えるかどうかは、買主の支払額ではなく売主側の譲渡対価の額で判定する。非居住者1人から1億5,000万円の住宅を2人の個人が半分ずつ買う場合も、それぞれ源泉徴収が必要になる

社長の会社が事務所や社宅として買う場合は、買主が法人なので金額にかかわらず源泉徴収が必要だ。役員社宅として使う物件であっても、法人が買主であることに変わりはない。

居住者か非居住者かは、原則として引渡しの日で判定する

売主が売買の途中で帰国したり、出国したりすることもある。国税庁の質疑応答事例は、土地の譲渡対価について、通常は引渡しがあった日が支払をすべき日になるため、その日に売主が居住者か非居住者かで源泉徴収の有無を判定するとしている。

事例では、非居住者から土地を買い、引渡しを受けた後に売主が帰国して居住者になり、その後に代金を支払っている。この場合でも、引渡しの時点で売主は非居住者だったため、源泉徴収が必要とされている。

売買契約、引渡し、代金の支払が別々の日になる取引では、引渡しの日に売主がどこに住んでいるかを確認しておく必要がある。

買主は代金から10.21%を差し引き、原則として翌月10日までに納付する

源泉徴収した所得税等は、原則として支払った月の翌月10日までに納付する。e-Taxで「所得税徴収高計算書データ」を送信して納付するか、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて金融機関や税務署で納める。

代金を国外で支払う場合でも、買主が日本に住所や事務所などを持っていれば、国内で支払ったものとみなして源泉徴収する。この場合の納付期限は翌月末日になる。

仮の数字で見ると、次のようになる。

  • 仮に、法人が非居住者の個人から8,000万円のマンションを買うとする
  • 引渡しの日に売主は非居住者で、代金は国内で一括して支払うとする
  • 固定資産税の精算金など、代金以外の授受は考えない

8,000万円 × 10.21% = 816.8万円(源泉徴収して納付)

買主は、代金から816.8万円を差し引いた残りを売主に支払い、816.8万円を税務署に納める。源泉徴収は売却益ではなく売買代金の総額にかかる点が、給与などの源泉徴収と感覚が違うところだ。

国税庁のリーフレットは、買主が売主の負担すべき所得税等を差し引かずに税務署に納付した場合、原則として納付した額を売主に請求できるとしている。ただし、海外に住む売主から後で回収するのは簡単ではない。契約の段階で、源泉徴収をする前提で代金の支払方法を決めておくほうが確実だ。

売主は確定申告で、源泉徴収された額を差し引いて精算する

売主の側から見ると、国内にある不動産の売却による所得は日本の国内源泉所得であり、原則として確定申告が必要になる。譲渡所得の計算方法は居住者と同じで、申告の期限は原則として翌年2月16日から3月15日までだ。

譲渡所得は、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いて求める。売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超える土地・建物は長期譲渡所得として所得税15%、5年以下なら短期譲渡所得として所得税30%で、それぞれ復興特別所得税が加わる。

先ほどの8,000万円の例で、売主の側を仮に計算する。

  • 仮に、取得費(減価償却後)と譲渡費用の合計を6,000万円、所有期間を10年(長期譲渡所得)とする
  • 居住用財産の特例などは使わないものとする
  • 住民税、住んでいる国の税は考えない
項目金額
売買代金8,000万円
取得費+譲渡費用6,000万円
長期譲渡所得2,000万円
所得税+復興特別所得税(15.315%)306.3万円
源泉徴収された額816.8万円
確定申告での精算510.5万円の還付

※仮の条件による単純計算です。実際の税額は取得費の算定、所有期間、特例の適用、他の国内源泉所得の有無などにより異なります。

この条件では、源泉徴収された816.8万円のうち、510.5万円が確定申告で戻る計算になる。売却損が出て他に納める税額もなければ、源泉徴収された額の全額が還付の対象になりうる。逆に、取得費が分からない物件などでは、税額が源泉徴収額を上回り、申告で追加の納付が生じることもある。

以前住んでいた家を売る場合は、居住用財産の3,000万円特別控除などの特例が論点になる。この特例は、以前住んでいた家屋なら住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件の一つで、確定申告で適用を受ける。海外に移ってからの年数は、売る時期の判断に関わる。

このほか、国税庁の資料は、一定の場合には消費税・地方消費税の申告が必要になることにも注意を促している。

申告と還付の受け取りには、納税管理人の届出が要る

非居住者が確定申告をする場合は、あらかじめ納税管理人を定め、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の所轄税務署長に出す必要がある。納税管理人は、申告書の提出、税務署からの書類の受け取り、納付や還付金の受け取りなどを非居住者に代わって行う人で、個人でも法人でもよい。

届出の後は、税務署が発送する書類は納税管理人あてに送られる。確定申告書そのものは、非居住者の納税地を所轄する税務署長に提出する。

国税庁の資料によれば、税務当局が納税管理人の指定を求めても届出がない場合、税務当局が一定の者を納税管理人に指定できるとされている。売却を決めた段階で、誰に納税管理人を頼むかを決めておきたい。

海外に移る前から日本の不動産を持っている場合は、出国時の手続や国外転出時課税とあわせて、日本に残る資産の手続を誰が担うかを整理しておく必要がある。

買主と仲介会社が、契約前に確認しておきたいこと

源泉徴収の義務を負うのは代金を支払う買主だ。売主の住所の確認や代金の流れの設計は、契約前に済ませておくほうがよい。

  1. 売主の住所:登記簿上の住所だけでなく、引渡しの日に日本に住所があるかを確認する
  2. 例外に当たるか:買主は個人か、自己・親族の居住用か、売主側の譲渡対価は1億円以下か
  3. 代金の支払方法:源泉徴収額を差し引いた額を売主に支払うことを、契約書や精算書に明記する
  4. 納付の担当と期限:翌月10日(国外払いの場合は翌月末日)までに、誰がどの様式で納付するか
  5. 売主側の申告体制:売主が納税管理人を決めているか。仲介会社は、売主が申告と精算の流れを理解しているかを確認する

仲介会社には源泉徴収の義務はない。ただ、買主が個人で源泉徴収を知らないまま決済を迎えると、後で買主が税額を負担し、売主に請求する形になりかねない。売主が非居住者だと分かった時点で、買主に伝えておくことが実務上の備えになる。

海外に住んだまま日本の不動産を売るのが向かない人/注意が必要なケース

次のような場合は、売却の時期や方法を、日本の手続の担い手とあわせて考えたほうがよい。

  • 納税管理人を頼める人がいない:申告も還付の受け取りも進めにくい
  • 取得費の資料が手元にない:譲渡所得の計算ができず、精算の見通しが立たない
  • 売却代金をすぐに全額使う予定がある:10.21%は申告で精算されるまで戻らない
  • 住んでいる国でも不動産の売却益が課税される:二重課税の調整は現地の制度しだいで、日本の公式資料では確認できない
  • 日本に賃貸中の物件がある:賃料にも源泉徴収や確定申告の論点が別に生じる

不動産は、海外に住んでも日本に残り続ける資産だ。持ち続ける間の手続も、売る時の手続も、日本の税制の中で行うことになる。売却代金を最終的にどこで、どう使うかまで含めて考えると、手元に残るお金の「出口」の見通しが立てやすい。

よくある疑問

Q. 非居住者の不動産売却で、源泉徴収された10.21%は戻りますか?

源泉徴収された額は、売主が確定申告をする際に税額から差し引いて精算します。実際の税額が源泉徴収額より少なければ、その差額が還付されます。申告には納税管理人の届出が必要です。

Q. 個人が非居住者から家を買う場合も、必ず源泉徴収が必要ですか?

個人が自己または親族の居住用に買い、対価が1億円以下の場合は源泉徴収は不要です。投資用として買う場合や、対価が1億円を超える場合は、個人の買主でも源泉徴収が必要です。

Q. 海外に住む売主の確定申告は誰がするのですか?

申告するのは売主本人ですが、非居住者は納税管理人を定めて税務署に届け出る必要があります。納税管理人は申告書の提出や納付・還付金の受け取りなどを代わりに行います。個人でも法人でも構いません。

見るべきは代金の額ではなく、誰が差し引き、誰が精算するか

非居住者の不動産売却では、買主が差し引いて納め、売主が申告で精算する。この2つの手続がそろって、初めて税金の話が閉じる。どちらかが抜けると、買主が税額を負担したり、売主の還付が受け取れないまま残ったりする。

海外に住んでも、日本の不動産にかかる税金と手続は日本に残る。売却の前に、引渡しの日、売主の住所、納税管理人、代金の流れを書き出してみると、誰に何を確認すべきかがはっきりする。