社長が自宅として住んでいるマンションの家賃は、毎月、役員報酬の手取りから支払っている。そこで「会社で借りて社宅にすれば、税金と手取りが変わる」と聞く。家賃の半分を会社が出せる、という説明も耳にする。
役員社宅は、社長の住居費を会社の費用で賄える、よく知られた仕組みだ。一方で、「家賃の何割を会社が払えるか」という理解のまま始めると、計算の根拠を説明できない社宅になりやすい。
この記事では、国税庁のタックスアンサーNo.2600と所得税基本通達に沿って、役員社宅の賃料相当額の計算を、小規模な住宅・それ以外・豪華社宅の区分ごとに確認する。そのうえで、借り上げ社宅と自社所有の違い、家賃負担の割合の考え方、否認されやすい例を整理する。
先に方向を示しておく。役員が払うべき家賃は「家賃の○割」で決まるものではない。住宅の区分に応じて計算した賃料相当額以上を、本人から受け取っているかどうかで決まる。
あわせて、2026年10月から、社会保険で社宅を報酬として計算する方法が変わる。税金とは別の物差しがある点も押さえておきたい。
この記事が役に立つ方
- 自宅の家賃を役員報酬の手取りから払っていて、社宅にするか迷っている
- すでに役員社宅にしているが、本人負担の家賃の根拠を説明できない
- 借り上げ社宅と自社所有の社宅、どちらが自社に合うか比べたい
役員社宅は、賃料相当額以上の家賃を受け取っていれば給与として扱われない
会社が役員に社宅を貸し、役員から1か月あたり一定額の家賃(賃料相当額)を受け取っていれば、国税庁は給与として課税されないとしている。
受け取る家賃が足りない場合の扱いは次のとおりだ。
- 無償で貸している場合:賃料相当額の全額が給与として課税される
- 賃料相当額より低い家賃を受け取っている場合:その差額が給与として課税される
- 現金で住宅手当を支給している場合や、役員本人が直接契約している家賃を会社が負担している場合:社宅の貸与とは認められず、給与として課税される
3つ目は見落とされやすい。社宅として扱われるには、会社が住宅を貸す形になっている必要がある。借り上げなら、賃貸借契約の借主は会社になる。
なお、従業員の社宅は賃料相当額の50%以上を受け取っていれば課税されないとされているが、役員にはこの50%の緩和はない。役員は賃料相当額そのもの以上を受け取る必要がある。
賃料相当額は「小規模な住宅」「それ以外」「豪華社宅」で計算が変わる
役員社宅の賃料相当額は、住宅の床面積と性質によって3つに区分して計算する。
| 区分 | 判定の基準 | 賃料相当額(月額) |
|---|---|---|
| 小規模な住宅 | 法定耐用年数30年以下の建物は床面積132㎡以下、30年超の建物は99㎡以下 | 固定資産税の課税標準額などから計算(次の節) |
| 小規模でない住宅 | 上記の面積を超えるもの | 自社所有:固定資産税の課税標準額から計算。借り上げ:家賃の50%と計算額の多いほう |
| 豪華社宅 | 床面積240㎡超で、取得価額・家賃・内外装などを総合勘案して判定。240㎡以下でもプールなどの設備があれば該当 | 通常支払うべき使用料(時価) |
※2026年9月時点の国税庁の取扱いに基づく整理です。
鉄筋コンクリート造のマンションは、一般に法定耐用年数が30年を超えるため、99㎡が小規模かどうかの境目になりやすい。区分所有のマンションでは、共用部分の床面積を按分して専用部分に加えて判定する。国税庁の質疑応答事例では、固定資産税の課税標準額も共用部分を含めて計算するとされている。
小規模な住宅の賃料相当額は、固定資産税の課税標準額から計算する
小規模な住宅の賃料相当額は、次の3つの合計だ。借り上げでも自社所有でも同じ式を使う。
建物の固定資産税の課税標準額×0.2% + 12円×(総床面積㎡÷3.3㎡)+ 敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
固定資産税の課税標準額は、毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている価格をいう。借り上げ社宅では、家主や管理会社から課税標準額の情報を入手する必要がある。
課税標準額は原則として3年ごとに評価替えされる。従業員の社宅には「改訂幅が20%以内なら再計算しなくてよい」という取扱いがあるが、これは使用人向けのものだ。役員社宅は、課税標準額が変われば原則として計算し直す。
小規模でない住宅は、自社所有なら「建物の課税標準額×12%(耐用年数30年超の建物は10%)+敷地の課税標準額×6%」を12で割った額になる。借り上げなら、この額と、会社が家主に支払う家賃の50%のうち多いほうだ。「役員は家賃の50%」という説明は、この小規模でない借り上げ社宅の話である。
家賃負担の割合は「何割」ではなく、計算結果から決まる
仮の数字で比べる。条件は次のとおりとする。
- 東京都内の鉄筋コンクリート造マンションを会社が借り上げ、家賃は月30万円(管理費込み)とする
- 建物の固定資産税の課税標準額(共用部分の按分後)を800万円、敷地を400万円とする
- 床面積が80㎡(小規模な住宅)の場合と、110㎡(小規模でない住宅)の場合を比べる
- 社会保険の欄は、2026年10月以後の東京都の現物給与価額(総面積1㎡あたり1,330円)から、本人が払う家賃を差し引いた額とする
| 項目(月額) | 本人が直接契約 | 社宅・80㎡(小規模) | 社宅・110㎡(小規模でない) |
|---|---|---|---|
| 賃料相当額 | ― | 約2.5万円 | 15万円(家賃の50%が計算額8.7万円を上回る) |
| 本人が払う家賃 | 30万円 | 約2.5万円 | 15万円 |
| 会社の負担 | 0円 | 約27.5万円 | 15万円 |
| 社会保険の報酬に加わる額 | ― | 約8.1万円 | 0円 |
※仮の条件による単純計算です。実際の課税標準額、床面積、所在地の現物給与価額などにより結果は変わります。
同じ家賃30万円の住宅でも、小規模な住宅に当たるかどうかで、本人負担は約2.5万円にも15万円にもなる。「家賃の何割を払えばいいか」という問いに一律の答えがないのは、このためだ。
本人が直接契約する場合、30万円の家賃は役員報酬から税金と社会保険料を引いた後のお金で払う。社宅にすれば、会社負担分は会社の費用になる。その分、役員報酬を見直すかどうかも合わせて検討することになる。報酬全体の考え方は社長の手取りを出口で整理した記事で扱っている。
社会保険では、2026年10月から社宅の評価方法が変わる
税金の賃料相当額とは別に、社会保険にも社宅の物差しがある。会社が住宅を現物で提供すると、厚生労働大臣が定める現物給与の価額で通貨に換算し、報酬に加えて標準報酬月額を決める。本人が家賃を払っていれば、その額を差し引く。
日本年金機構によると、住宅の現物給与価額は2026年10月1日から、居住室の畳数あたりの価額から、総面積1㎡あたりの価額に変わる。台所・トイレ・浴室・廊下も面積に含めて計算するようになる。東京都は1㎡あたり1,330円だ。
上の表の80㎡の例では、1,330円×80㎡=10万6,400円から本人負担の約2.5万円を引いた約8.1万円が報酬に加わる。報酬がすでに社会保険の上限を超えている社長なら影響は小さいが、そうでなければ保険料が増える。改正は固定的賃金の変動に当たるため、月額変更の届出が必要になる場合もある。健康保険組合によっては別の定めがあることにも注意したい。
借り上げ社宅と自社所有の社宅では、判断の材料が違う
社宅には、会社が賃貸住宅を借りる「借り上げ社宅」と、会社が住宅を取得する「自社所有の社宅」がある。
- 借り上げ社宅:会社が家主と契約し、家賃を払う。家賃は会社の費用になる。住み替えや解約がしやすい。小規模でない場合は、家主に払う家賃の50%が賃料相当額の下限になる
- 自社所有の社宅:会社が取得し、建物は減価償却で費用になる。小規模でない場合も家賃の50%基準はなく、固定資産税の課税標準額から計算する。取得資金が会社に固定され、将来の売却や社長の退任時の扱いも考える必要がある
自社所有は、賃料相当額が低く計算されやすい面がある。その一方で、会社の資金をどれだけの期間、住宅に固定するかという別の判断が加わる。退任後もその住宅に住み続けたいなら、会社から買い取る場合の価格や税金まで見ておく必要がある。
否認されやすいのは、契約・計算・支払いのどれかが欠けている社宅
役員社宅で問題になりやすい例を挙げる。
- 賃貸借契約の借主が社長個人のままで、会社が家賃を負担している
- 賃料相当額の計算書がなく、固定資産税の課税標準額を確認していない
- 「役員は家賃の50%」と思い込み、小規模かどうかの判定をしていない、または逆に小規模でないのに小規模の式で計算している
- 本人負担の家賃を給与から差し引いた記録がなく、実際に受け取っているか示せない
- 評価替えで課税標準額が変わったのに、何年も計算し直していない
- 床面積が大きく、内装や設備が豪華で、社会通念上一般的な社宅とは言いにくい
否認されると、不足していた部分が役員への給与として課税される。会社は源泉徴収の不足分を求められることがある。社宅は、契約・計算・家賃の受け取りの3点を書面で示せる状態にしておきたい。
自宅の一部を事務所として使っているなど、公的使用に充てる部分がある場合は、賃料相当額の70%以上を受け取っていればよいとする取扱いもある。ただし、事務所として使っている実態を示せることが前提になる。
よくある疑問
Q. 役員社宅は、家賃の何割を本人が負担すればいいですか?
一律の割合はありません。小規模な住宅なら固定資産税の課税標準額などから計算した額、小規模でない借り上げ社宅なら家賃の50%と計算額の多いほうが目安になります。豪華社宅に当たる場合は時価が基準です。まず住宅の区分を判定し、計算した賃料相当額以上を受け取るようにします。
Q. 借り上げ社宅にすると、どれくらいの節税効果がありますか?
会社が負担する家賃は会社の費用になり、本人は税引後の報酬から払う家賃が減ります。効果の大きさは、住宅の区分、家賃、役員報酬の水準、社会保険料への影響によって変わります。2026年10月からは社会保険の現物給与の計算方法も変わるため、税金と社会保険料の両方で試算することをおすすめします。
Q. 賃料相当額の計算に必要な固定資産税の課税標準額は、どうやって調べますか?
自社所有なら、市区町村から届く固定資産税の課税明細書で確認できます。借り上げ社宅の場合は、家主や管理会社に依頼して課税標準額の情報を入手するのが一般的です。区分所有のマンションは、共用部分を含めて計算します。
見るべきは「会社が払う割合」ではなく「本人が払う額の根拠」
役員社宅は、社長の住居費を会社の費用で賄える仕組みだ。ただし、その前提は、住宅の区分に応じて賃料相当額を計算し、それ以上の家賃を本人から受け取っていることにある。「家賃の半分」は、小規模でない借り上げ社宅に限った目安にすぎない。
そして2026年10月からは、社会保険でも社宅の評価方法が変わる。税金の計算と社会保険の計算は、別々に確かめる必要がある。
いまの社宅について、賃料相当額の計算書と、家賃を受け取っている記録を、すぐに出せるだろうか。出せるなら仕組みは機能している。出せないなら、そこから整え直すことになる。