「自社株の相続税・贈与税が、全額猶予される制度がある」。事業承継の話になると、たいてい事業承継税制の名前が出てくる。

自社株の評価が高い会社にとって、魅力的に聞こえる制度だ。一方で「途中で取り消されると大変だ」「手続きが重い」という話も耳にする。

どちらも事実だ。事業承継税制は、一定の要件のもとで納税を猶予し、後継者の死亡などの場面で免除する制度で、入口は「猶予」、免除はその先にある。猶予を受けた後も、要件を守り続ける必要がある。

この記事では、一般措置と特例措置の違い、2026年9月時点の期限、猶予が取り消される主なケース、使う前に確認すべきことを整理する。

特例措置については、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長された。一方で、贈与・相続等の実行期限である2027年12月31日は変わっていない。この2つの期限を取り違えないことが、最初のポイントになる。

この記事が役に立つ方

  • 事業承継税制を勧められたが、使うべきか判断できない
  • 特例措置の期限がいつなのか、正確に知りたい
  • 猶予が取り消されるのはどんなときか、事前に把握しておきたい

事業承継税制は「免除」ではなく「猶予」から始まる

法人版事業承継税制は、後継者が経営承継円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式を贈与・相続等で取得した場合に、その株式に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度だ。そして、後継者の死亡など一定の場合に、猶予されている税額の納付が免除される。

流れを単純化すると、次のようになる。

  1. (特例措置の場合)特例承継計画を都道府県に提出し、確認を受ける
  2. 贈与・相続等の後、都道府県知事の認定を受ける
  3. 申告期限までに、制度の適用を受ける旨の申告書を提出し、担保を提供する
  4. 申告後5年間は、都道府県への年次報告と税務署への継続届出書の提出を毎年行う
  5. 6年目以降は、税務署への継続届出書を3年ごとに提出する

猶予期間中は、代表者であり続けること、株式を持ち続けることなどが求められる。猶予は1回の手続きで終わるものではなく、長い期間の管理を伴う。

特例措置と一般措置の違いは、対象株数・猶予割合・人数

事業承継税制には、恒久的な「一般措置」と、期間限定の「特例措置」がある。主な違いは次のとおりだ。

項目特例措置一般措置
事前の計画特例承継計画の提出が必要(2027年9月30日まで)不要
適用期限2018年1月1日〜2027年12月31日の贈与・相続等なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与100%、相続80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件弾力化(下回っても理由の報告で継続)5年間平均で8割の雇用維持が必要
経営環境の変化による免除ありなし

※国税庁「法人版事業承継税制のあらまし(令和8年7月)」による(2026年9月時点)。

特例措置は、承継する株式に係る贈与税・相続税の全額が猶予の対象になる点が大きい。一般措置では対象株数と猶予割合に上限があり、残りの税額は通常どおり納める必要がある。

特例承継計画の提出期限は、2027年9月30日まで延びた

特例措置を使うには、会社が「特例承継計画」を作り、都道府県に提出して確認を受ける必要がある。計画には、後継者の氏名、承継の予定時期、承継までの経営見通し、承継後5年間の事業計画などを書き、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所、金融機関など)の指導・助言を受ける。

提出期限は、もともと2024年3月31日だった。令和6年度税制改正で2026年3月31日まで延び、さらに令和8年度税制改正で1年6か月延長され、2027年9月30日までとなった(中小企業庁・国税庁の公表内容による、2026年9月時点)。

なお、特例承継計画は、贈与の後でも認定の申請時までに提出することができる。ただし、提出期限そのものは2027年9月30日だ。

贈与・相続等の実行期限は、2027年12月31日のまま

計画の提出期限が延びたことで、特例措置そのものも延長されたと受け取られることがある。これは誤りだ。

特例措置の対象になるのは、2018年1月1日から2027年12月31日までの贈与・相続等で取得した株式だ。令和8年度改正で延長されたのは特例承継計画の提出期限で、この適用期限は変わっていない。

ここから言えることは2つある。

  • 贈与で特例措置を使うなら、2027年12月31日までに贈与を実行する必要がある
  • 計画を出していても、2027年12月31日までに贈与を行わず、2028年以降に相続が起きた場合、その相続による取得は特例措置の対象外になる(すでに適用を受けている後継者が一定期間内に追加で取得する場合などを除く)

残り期間は約1年3か月だ。計画を出せば間に合うのではなく、期限内に株式を動かせるかが問われる。後継者の就任時期、株価の水準、家族の合意を、この期間で整えられるかを確認する必要がある。

猶予が取り消される主なケース

猶予を受けた後、一定の事由(確定事由)に当たると、猶予されている税額の全部または一部と利子税を納付する必要がある。国税庁のパンフレットでは、主な場合として次のものが挙げられている。

事由申告後5年以内5年経過後
対象株式の一部を譲渡等した全額を納付譲渡等した部分に対応する額を納付
後継者が代表権を有しなくなった全額を納付(やむを得ない理由がある場合を除く)猶予は継続
会社が資産管理会社に該当した全額を納付全額を納付
雇用の平均が8割を下回った特例措置は理由の報告等で継続(一般措置は全額納付)猶予は継続
継続届出書を提出しなかった全額を納付全額を納付

※一定の要件を満たす会社を除くなど、細かな例外があります。国税庁「法人版事業承継税制のあらまし(令和8年7月)」による。

とくに注意したいのは、資産管理会社への該当は、5年経過後も全額納付の事由になる点だ。ここでいう資産管理会社は、有価証券や自ら使用していない不動産、現預金などの割合が総資産の70%以上の会社(資産保有型会社)や、それらからの運用収入が総収入の75%以上の会社(資産運用型会社)を指す(一定の要件を満たすものを除く)。本業を縮小して資産運用中心の会社になると、この区分に近づく。資産管理会社の論点は資産管理会社の記事でも触れている。

納付が必要になった場合の利子税は、原則として年3.6%で、各年の利子税特例基準割合に応じて軽減される。また、5年経過後に猶予税額を納付する場合は、その5年間の利子税の割合をゼロとする扱いがある。

猶予税額が免除される場面も決まっている

猶予が最終的に免除されるのは、主に次のような場合だ。

  • 先代経営者(贈与者)や後継者が死亡した場合
  • 5年経過後に、次の後継者へ株式を贈与し、その後継者が事業承継税制の適用を受ける場合(免除対象贈与)
  • 5年経過後に、会社について破産手続開始の決定などがあった場合
  • 特例措置で、5年経過後に経営環境の悪化など一定の事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合(再計算した税額との差額を免除)

贈与税の猶予を受けた場合、先代経営者が亡くなると、その株式は相続で取得したものとみなされ、贈与時の価額で相続税の計算に組み込まれる。そのうえで要件を満たせば、相続税の納税猶予に切り替えることができる。贈与税の猶予は、相続税の猶予へとつながっていく制度設計になっている。

贈与税の計算方法にも選択がある。事業承継税制の贈与では、暦年課税のほか相続時精算課税を使うことができ、特例措置では60歳以上の贈与者から18歳以上の後継者への贈与が対象になる(一般措置は推定相続人・孫に限られる)。相続時精算課税を選ぶと、基礎控除110万円と特別控除2,500万円を引いた残りに20%の税率で贈与税を計算する。

この選択は、猶予が途中で取り消されたときに納める税額に関わる。暦年課税の贈与税は累進税率で、評価額の大きい株式では高い税率の段階に入りやすい。どちらを選ぶかは、取消しの可能性まで含めて顧問税理士と試算しておきたい。

使う前に確認したいこと

事業承継税制を使うかどうかは、猶予される額の大きさだけでは決められない。次の点を、実行の前に確認しておきたい。

  1. 後継者は決まっているか。特例措置の贈与では、贈与時に18歳以上で代表権を持ち、贈与の直前に役員であることなどが求められる(一般措置は贈与の日まで3年以上役員であることが要件)
  2. 将来、会社を売る可能性はないか。株式の譲渡は、時期によって猶予税額の納付につながる
  3. 資産管理会社に当たる可能性はないか。遊休不動産や有価証券、現預金の割合を確認する
  4. 担保を提供できるか。対象株式のすべてを担保に提供する方法もある
  5. 毎年の報告・届出を管理できる体制があるか。提出漏れは全額納付の事由になる
  6. ほかの相続人との関係は整理できているか。株式を集中させると遺留分の問題が残る
  7. 2027年12月31日までに贈与・相続等を実行する計画か。間に合わない場合は一般措置やほかの方法との比較が必要になる

判断の材料としては、制度を使った場合と使わなかった場合の2つの道を並べて比べるとよい。使わない道では、暦年贈与や相続時精算課税、後継者への譲渡、金庫株などを組み合わせて納税資金を準備することになる。使う道では、猶予の管理コストと、取消し時に納める税額と利子税を見込んでおく。どちらが有利かは、株価の水準、後継者の年齢、会社の将来像で変わる。

6番目の遺留分や、納税資金の準備については、自社株の相続税が払えない問題の記事で整理している。

よくある疑問

Q. 事業承継税制の特例措置は、2027年以降も延長されますか?

2026年9月時点で延長されたのは特例承継計画の提出期限(2027年9月30日まで)で、贈与・相続等の適用期限(2027年12月31日まで)は変わっていません。今後の税制改正の内容は現時点では分からないため、現行の期限を前提に計画を立てる必要があります。

Q. 事業承継税制の納税猶予は、必ず最後に免除されますか?

免除されるのは、後継者の死亡や次の後継者への贈与など、決められた場合に限られます。途中で株式を譲渡したり、代表者でなくなったり、会社が資産管理会社に該当したりすると、猶予された税額と利子税を納付する必要が生じることがあります。

Q. 特例承継計画は、誰に相談して作ればよいですか?

計画には認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要です。顧問税理士が認定支援機関になっている場合も多いため、まず確認するとよいでしょう。提出先は会社の主たる事務所がある都道府県の担当窓口です。

猶予の入口より、免除まで続けられるかを見る

事業承継税制は、自社株の贈与税・相続税の負担を大きく先送りできる制度だ。とくに特例措置は、全株式・全額を猶予の対象にできる。

ただし、その効果が最後まで続くかどうかは、猶予を受けた後の20年、30年の経営にかかっている。見るべきは猶予される額ではなく、免除に至るまで要件を守り続けられるかだ。

後継者が会社を売りたくなったとき、事業の中身が変わったとき、それでも猶予を続けられる設計になっているだろうか。そこまで考えて初めて、この制度を使うかどうかを判断できる。