会社は毎年しっかり利益を出している。内部留保も積み上がってきた。

ある日、顧問税理士に自社株の評価額を試算してもらうと、想像していなかった金額が出てくる。そこから計算した相続税の見込み額も、社長個人の預金ではとても足りない。

「自社株の相続税が払えない」という問題は、業績の悪い会社ではなく、業績の良い会社ほど起きやすい。利益が積み上がるほど株価が上がり、その株は簡単には売れないからだ。

この記事では、自社株の株価が上がる仕組みと、納税資金が足りなくなる構造を整理する。そのうえで、生前の移転、金庫株、延納、事業承継税制、遺留分への備えといった打てる手の概要を並べる。

この記事の方向を示しておく。見るべきは相続税をいくら減らせるかより、誰が、いつ、どの現金で払うかだ。そして使える手の多くは、時間があるうちにしか選べない。

この記事が役に立つ方

  • 会社の利益と内部留保が増え、自社株の評価額が気になり始めた
  • 後継者は決まりつつあるが、株式をどう渡すかは手つかず
  • 相続税をどの資金で払うのか、家族で話したことがない

自社株は、換金しにくいのに課税される財産

相続税は、現金や預金だけでなく、不動産や株式を含めた財産の価額に対してかかる。非上場の自社株も、相続税の課税対象になる財産だ。

問題は、自社株が市場で売れない財産である点にある。上場株式なら必要な分だけ売って納税資金にできる。自社株は買い手が限られ、後継者が経営を続けるなら、そもそも手放したくない。

相続税の申告と納付の期限は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内だ。その間に、評価額に見合う現金を用意できるかが問われる。

相続税の税率は、法定相続分に応ずる取得金額に応じて10%から55%までの8段階に分かれる(2026年9月時点)。自社株の評価が大きいと、財産全体が高い税率の段階に押し上げられる。

利益が出るほど、自社株の評価は上がっていく

非上場株式の相続税評価は、国税庁の財産評価基本通達で方法が定められている。経営者一族が相続する場合、主に「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」を会社の規模に応じて組み合わせる。

  • 類似業種比準方式は、同じ業種の上場企業の株価を基に、自社の「配当」「利益」「純資産(帳簿価額)」の3つを比べて株価を求める
  • 純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税の評価額に置き換え、差し引いた純資産から株価を求める

どちらの方式でも、利益が出て内部留保が積み上がると、株価を押し上げる方向に働く。類似業種比準方式では利益と純資産の要素が大きくなり、純資産価額方式では純資産そのものが増える。

ここで起きているのは、社長が会社にお金を残すほど、自分の相続財産が増えていくという関係だ。役員報酬を抑えて会社に利益を残す判断は、法人税と所得税の比較では合理的に見えても、相続税の面では株価を上げる選択になっている。評価の詳しい仕組みは自社株の相続税評価額の記事で整理している。

払えない問題は、税額より現金の置き場所で起きる

自社株の相続税が払えなくなる典型は、次の形だ。

  • 社長の財産の大部分が自社株で、個人の預金は少ない
  • 会社には現預金があるが、それは会社のお金で、相続人のお金ではない
  • 後継者は株式を相続しても、そこから配当や報酬をすぐに受け取れるわけではない

仮に、次の前提で相続税の総額を計算してみる。

  • 相続財産は自社株3億円と預金1億円の合計4億円。債務・葬式費用・生前贈与はない
  • 相続人は子2人(配偶者なし)。小規模宅地等の特例などの減額はない
  • 基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円
項目金額
課税遺産総額4億円−4,200万円=3億5,800万円
子1人あたりの法定相続分に応ずる取得金額1億7,900万円
子1人あたりの税額(40%−1,700万円)5,460万円
相続税の総額1億920万円

※仮の条件による単純計算です。実際の税額は財産の構成や特例の適用により異なります。

この例では、預金1億円をすべて充てても相続税に届かない。後継者が自社株を相続するなら、ほかの相続人との分け方次第で、不足はさらに大きくなる。

会社に現金があっても、それを相続人の納税に使うには、何らかの出口を通す必要がある。配当なら後継者に所得税がかかり、役員報酬なら毎月の支払いで時間がかかる。現金が会社側にあり、税金は個人側にかかる。このずれが、払えない問題の正体だ。

納税資金の準備として検討されることが多いのが、会社から遺族に支払う死亡退職金だ。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等は相続財産とみなされるが、相続人が受け取る分には「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額がある。会社側では、支給額が役員退職給与として相当かどうかも問われる。

会社から個人へお金を動かす出口は、社長の手取りを「お金の出口」で考える記事で整理した。相続税の納税資金も、同じ出口のどこかを通って準備することになる。

最初にやることは、今の株価を知ること

対策の話に入る前に、今の自社株がいくらと評価されるのかを知る必要がある。評価額が分からなければ、相続税の見込み額も、準備すべき現金の額も決まらない。

自社株の評価は、決算の数字が変わるたびに動く。利益が大きく出た年の翌年は株価が上がりやすく、退職金の支払いなどで利益が大きく減った年の翌年は下がりやすい。一度試算して終わりではなく、決算ごとに見直す数字として扱うのが現実的だ。

顧問税理士に依頼するときは、評価額だけでなく、どの要素が株価を押し上げているか(利益なのか、純資産なのか、含み益のある資産なのか)も聞いておくと、次の打ち手を考えやすい。

あわせて、今の利益水準が続いた場合に3年後・5年後の株価がどうなるかの見込みも出しておきたい。相続税の準備は、今日の株価ではなく、実際に相続や贈与が起きる時点の株価で必要額が決まるからだ。社長個人の預金、生命保険、不動産など、自社株以外の財産の一覧も同時に作っておくと、不足額の見当がつく。

生前に株式を移す方法は、贈与・譲渡・組織の見直しに分かれる

株価が分かったら、株式をいつ、どの方法で後継者に移すかを考える。主な方法は次のとおりだ。

方法概要主な注意点
暦年贈与毎年の基礎控除110万円などを使い、少しずつ株式を渡す相続開始前の一定期間の贈与は相続財産に加算される。加算期間は段階的に3年から7年へ延びている
相続時精算課税贈与時の評価額で移し、相続時に精算する令和6年以後の贈与は年110万円の基礎控除がある。選択すると同じ贈与者からは暦年課税に戻れない
後継者への譲渡後継者が株式を買い取る後継者側に買取資金が要る。売った側には譲渡所得の課税がある
持株会社などの組織の見直し株式の持ち方そのものを変える組織再編の税制、株価評価上の論点がある

※2026年9月時点の一般的な整理です。適用要件は個別に確認が必要です。

いずれの方法も、株価が低い時期に移すほど、移した後の株価上昇は後継者側に帰属する。退職金の支給などで株価が下がる年は、移転のタイミングとして検討されることが多い。持株会社の論点はホールディングス化の記事で扱っている。

金庫株と延納は、相続後に納税資金をつくる選択肢

相続が起きた後に使える手もある。

1つは、相続した自社株の一部を会社に買い取ってもらう(金庫株)方法だ。通常、個人が発行会社に株式を譲渡すると、一定部分が配当とみなされて総合課税の対象になる。ただし、相続税を納付すべき人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当の課税を行わず、譲渡所得として扱う特例がある。会社側の分配可能額の範囲など、会社法上の制限も確認が必要になる。

もう1つは延納だ。相続税額が10万円を超え、金銭で一括納付することが困難な場合には、担保を提供して年払いで納めることができる。延納期間中は利子税がかかる。

どちらも、相続が起きた後の「つなぎ」の手段だ。会社の資金繰りや後継者の負担を考えると、相続後の手段だけに頼る計画は選択肢が狭い。

事業承継税制は猶予であり、続けるための条件がある

自社株の相続税・贈与税の納税を猶予する制度として、法人版事業承継税制がある。特例措置では、一定の要件のもと、後継者が取得した株式に係る相続税・贈与税の全額が猶予の対象になる。

ただし、これは免除ではなく猶予から始まる制度だ。後継者が代表者でなくなる、株式を譲渡する、会社が資産管理会社に該当するといった場合には、猶予された税額と利子税の納付が必要になることがある。

特例措置を使うには、特例承継計画を2027年9月30日までに都道府県に提出し、2027年12月31日までに贈与・相続等で株式を取得する必要がある(2026年9月時点)。制度の詳細は事業承継税制の記事で整理している。

遺留分を置き去りにすると、株が分散する

相続税の準備ができても、もう一つの壁がある。遺留分だ。

兄弟姉妹以外の相続人には、民法上、最低限の取り分として遺留分が認められている。後継者に自社株を集中させた結果、ほかの相続人の遺留分を侵害すると、侵害額に相当する金銭の支払いを求められることがある。相続人に対する生前贈与も、原則として相続開始前10年以内のものは遺留分の計算に含まれる。

支払う現金がなければ、株式を手放すことになりかねない。株価が上がっていれば、請求される額も大きくなる。

対応の選択肢として、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」がある。推定相続人全員の合意のうえで、後継者に贈与した自社株を遺留分の計算から除外したり(除外合意)、算入する価額を合意時の評価額に固定したり(固定合意)できる。経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要になる。

よくある疑問

Q. 自社株の相続税が払えない場合、会社のお金で払えますか?

会社のお金は会社のもので、そのまま相続人の相続税に充てることはできません。配当や役員報酬として受け取る、相続した株式を会社に買い取ってもらう(金庫株)など、会社から個人にお金を移す手続きが必要で、それぞれに税金がかかります。

Q. 自社株の相続対策は、何歳ごろから始めるものですか?

年齢の目安よりも、株価の水準と後継者の状況で考えるほうが実態に合います。暦年贈与の加算期間の延長や、事業承継税制の特例措置の期限など、時間が経つほど使いにくくなる手があるため、評価額の把握だけでも早めに行う意味があります。

Q. 自社株の株価を下げれば、相続対策は終わりですか?

株価が下がっても、納税資金の準備、後継者への移転方法、ほかの相続人の遺留分といった課題は残ります。株価を下げる施策の多くは一時的な効果で、会社の経営判断との両立も必要です。株価は対策の入口の一つとして扱うのが無理のない考え方です。

早く動く理由は、選べる手が時間とともに減るから

自社株の相続税の問題は、業績が良いほど大きくなる。そして、相続が起きてから使える手は、金庫株や延納など限られている。

生前の贈与は加算期間が延び、事業承継税制の特例措置には期限があり、遺留分の合意には家族全員の同意が要る。どの手も、時間と家族の合意がある間にしか選べない。

いまの自社株の評価額と、相続税を払う現金の置き場所。この2つを並べて書けるだろうか。書けなければ、そこが最初の確認ポイントになる。