海外の銀行口座に事業の資金を少しずつ移してきた。海外の子会社に貸し付けたお金もある。気づけば、円に換算すると数千万円の単位になっている。
こうした社長が確認しておきたいのが、国外財産調書だ。12月31日に国外財産の合計が5,000万円を超える居住者は、翌年6月30日までに税務署へ提出することになっている。
この調書は、税金を計算する申告書ではない。国外にある財産の種類・数量・価額を毎年報告する書類だ。そして、出したかどうかで、申告漏れがあったときの加算税の重さが変わる。
この記事では、2026年9月時点の国税庁の資料をもとに、提出義務者、国外財産の判定、提出期限、書き方、加算税の軽減と加重、罰則、財産債務調書との関係を整理する。見るべきは「国外財産が把握されるかどうか」ではなく、12月31日の国外財産を、決まったルールで毎年数えて出せるかだ。
この記事が役に立つ方
- 海外の口座・不動産・株式などを持っていて、合計額が5,000万円に近い、または超えている
- 海外の法人に出資や貸付けをしていて、それが調書の対象になるか分からない
- 国外財産調書を出したことがなく、提出期限や書き方を知りたい
国外財産調書は、12月31日に国外財産が5,000万円を超える居住者が出す
国外財産調書の提出義務があるのは、居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日に、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を持つ人だ。
判定のポイントは3つある。
- 基準日は12月31日:年の途中で5,000万円を超えていても、12月31日に超えていなければ対象にならない。逆も同じだ
- 「超える」かどうか:5,000万円ちょうどは対象にならない
- 居住者かどうかも12月31日で判定:居住者とは国内に住所があるか、引き続き1年以上居所がある個人で、住所は生活の本拠を客観的事実で判定する
含み損のある信用取引やデリバティブ取引の権利も、判定に含める。価額がマイナスになる場合は、他の財産の価額と通算して合計する。
なお、提出期限までに調書を出さずに亡くなった場合や、納税管理人の届出をせずに出国した場合は、提出を要しないとされている。
国外財産かどうかは、通帳の通貨ではなく財産の「所在」で決まる
調書の対象になるのは「国外にある財産」だ。国外にあるかどうかは、相続税法の所在の定めで判定する。外貨かどうかや、海外の銘柄かどうかでは決まらないことが多い。
| 財産の例 | 国外財産か | 判定の基準 |
|---|---|---|
| 海外にある銀行の支店に預けた預金 | 国外財産 | 預け入れた営業所の所在 |
| 国内の銀行の国内支店にある外貨預金 | 国外財産ではない | 預け入れた営業所の所在 |
| 国内の証券会社の口座で持つ外国株式 | 国外財産ではない | 口座を開いた営業所の所在 |
| 海外の証券会社の口座で持つ株式(日本株を含む) | 国外財産 | 口座を開いた営業所の所在 |
| 口座に入れずに直接持つ海外法人の株式 | 国外財産 | 発行法人の本店の所在 |
| 海外に本店がある法人への貸付金 | 国外財産 | 債務者の本店の所在 |
| 海外にある土地・建物 | 国外財産 | 不動産の所在 |
※2026年9月時点。国税庁「国外財産調書制度(FAQ)」(令和7年6月)をもとに整理。個別の財産の判定は、税理士等に確認してください。
オーナー経営者が見落としやすいのは、下の2行だ。社長個人が海外法人の株を持っていたり、社長個人から海外法人に貸し付けていたりすれば、それぞれ国外財産になる。海外子会社を作った経緯は、外国子会社合算税制の記事とあわせて確認しておきたい。
一方で、会社名義で持つ財産は会社のものであり、社長個人の調書に載せる財産ではない。誰の名義で持っているかを、財産ごとに書き出すところから始まる。
提出期限は翌年6月30日。期限を過ぎても、調査通知の前なら扱いが変わる
提出期限は、その年の翌年の6月30日だ。2023年(令和5年)分から、それまでの3月15日から延びた。提出先は所得税の納税地を所轄する税務署長で、e-Taxでも提出できる。
期限に間に合わなかった場合も、そのままにしないほうがよい。国税庁のFAQは、期限後に提出した調書でも、調査があったことにより更正・決定を予知してされたものでなく、調査通知の前に提出されたものであれば、期限内に提出されたものとみなすとしている(2024年1月1日以後の提出)。
出した調書に誤りや記載漏れがあった場合は、再提出で訂正できる。その際は、誤った財産だけでなく、すべての国外財産を記載し直す必要がある。
書き方は、財産の区分ごとに種類・用途・所在と、12月31日の価額を記載する
調書には、氏名・住所・マイナンバーのほか、財産の区分(土地、建物、預貯金、有価証券、貸付金など)に応じて、種類別・用途別(一般用・事業用)・所在別に、数量と価額を記載する。預貯金なら金融機関の名称と支店名、貸付金なら債務者の氏名・名称も書く。あわせて、区分ごとの合計額を書いた「国外財産調書合計表」を添付する。
価額は、12月31日の時価か、時価に準ずる見積価額による。上場株式なら12月31日の最終価格、預金なら残高が基本になる。
外貨建ての財産は、12月31日の外国為替の売買相場で円に換算する。国税庁の通達では、取引金融機関が公表する12月31日の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)またはこれに準ずる相場を使う。
為替の動きは、提出義務の判定そのものを変えることがある。仮の数字で確かめる。
- 仮に、海外の銀行に30万米ドルの預金と、円換算1,000万円の海外不動産を持つとする
- 12月31日のTTBを、仮に150円と130円の2通りとする
- ほかに国外財産はなく、不動産の価額は為替で変わらないものとする
| 12月31日のTTB | 預金の円換算 | 国外財産の合計 | 提出義務 |
|---|---|---|---|
| 1ドル=150円 | 4,500万円 | 5,500万円 | あり |
| 1ドル=130円 | 3,900万円 | 4,900万円 | なし |
※仮の条件による単純計算です。実際の判定は、保有するすべての国外財産と、取引金融機関が公表する相場によります。
資産の中身が同じでも、年末の為替だけで提出が必要な年と不要な年が入れ替わる。5,000万円の前後にいる人は、毎年12月31日の数字を記録しておきたい。
調書を出した人は加算税が軽くなり、出さない人は重くなる
国外財産調書には、提出を促すための加算税の特例がある。対象は、国外財産に関する所得税・相続税の申告漏れが見つかった場合だ。
| 状況 | 過少申告加算税・無申告加算税の扱い |
|---|---|
| 期限内に提出した調書に、その財産の記載がある | 5%軽減 |
| 期限内に提出がない、または記載すべき財産の記載がない(重要なものの記載が不十分な場合を含む) | 5%加重(所得税・相続税。死亡した人に係るものを除く) |
| 国外財産の取得・運用・処分の書類の提示等を求められ、指定された期限までに応じない | 軽減は適用されず、加重は10%になる |
※2026年9月時点。国税庁タックスアンサーNo.7456をもとに整理。書類の提示等の期限は、求められた日から60日を超えない範囲で指定されます。
国税庁は、外国の税務当局から受け取る金融口座の情報(CRS情報)などを、国外送金等調書や国外財産調書などと併せて分析し、課税上問題のある資産や所得の把握に使っていると公表している。調書は、正しく出した人が不利にならないように設計された仕組みと読むほうが実態に近い。
偽りの記載や、正当な理由のない不提出には罰則もある
加算税とは別に、刑事罰の定めもある。国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合、または正当な理由なく提出期限までに提出しなかった場合は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処されることがある。
ただし、正当な理由なく期限までに提出しなかった場合は、情状によって刑を免除できるとされている。調書の提出に関する調査で、質問に答えない、偽りの答弁をする、検査を拒むといった場合も、同じ罰則の対象になる。
財産債務調書も出す人は、国外財産については合計額だけを書く
所得や財産が一定以上の人は、国内外の財産と債務を記載する財産債務調書の提出も必要になる。対象は次のいずれかだ(2023年分以後)。
- 退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ12月31日に3億円以上の財産、または1億円以上の国外転出特例対象財産を持つ人
- 12月31日に10億円以上の財産を持つ居住者
財産債務調書を出す人でも、国外財産が5,000万円を超えれば、国外財産調書も出す。この場合、財産債務調書には国外財産の明細は書かず、国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額などを記載する。国外にある債務は、財産債務調書に記載する。
国外転出特例対象財産(有価証券等)が1億円以上ある人は、海外に移る際の国外転出時課税にも関わってくる。
国外財産調書で注意が必要なケース
次のような場合は、提出の要否や記載の仕方で迷いやすい。早めに税理士に確認したい。
- 相続で国外財産を取得した:相続が開始した年の年分は、相続した国外財産を記載せずに提出でき、提出義務の判定からも除外できる。翌年分からは対象になる
- 5,000万円の前後を行き来している:為替や相場で、提出が必要な年と不要な年が入れ替わる
- 海外法人への出資・貸付けがある:非上場株式の価額や、貸付金の相手の本店所在地を確認する必要がある
- 海外に移る予定がある:12月31日の居住者判定や、出国時の手続が関わる
- 調書を出していない年がすでにある:調査通知の前に提出すれば期限内提出とみなされる場合がある
もう1つ大切なのは、調書を出しても、国外財産から生まれた所得の申告が済むわけではないことだ。居住者(非永住者以外)は、国内外で生じたすべての所得に課税される。海外の預金の利子や、海外不動産の家賃は、確定申告で申告する。
よくある疑問
Q. 国外財産調書の提出期限はいつですか?
その年の12月31日時点の国外財産について、翌年の6月30日までに提出します。2022年(令和4年)分以前は翌年3月15日でしたが、2023年(令和5年)分から6月30日になりました。期限後の提出でも、調査通知の前であるなど一定の場合には、期限内に提出されたものとみなされます。
Q. 国外財産調書を提出しないとどうなりますか?
国外財産に関する所得税・相続税の申告漏れが見つかった場合、過少申告加算税等が5%加重されます。書類の提示等の求めに期限までに応じない場合は10%の加重になります。さらに、正当な理由のない不提出や偽りの記載には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の定めがあります。
Q. 国内の銀行にある外貨預金も、国外財産調書に書く必要がありますか?
国内に本店のある銀行の国内支店に開設した外貨預金は、国外財産調書の対象になりません。外国銀行の国内支店に預けた預金も同様です。預金が国外財産かどうかは、通貨ではなく預け入れた営業所の所在で判定します。
見るべきは把握されるかではなく、毎年同じ手順で数えられるか
国外財産調書は、国外財産を持つこと自体を問題にする制度ではない。12月31日の国外財産を、所在のルールに沿って数え、期限までに出すことを求める制度だ。
そして、正しく出していれば、申告漏れがあったときの加算税は軽くなる。出していなければ重くなる。仕組みは、はっきりしている。
今年の12月31日、社長個人の名義で国外にある財産を、財産の区分ごとに書き出せるだろうか。そのリストが、調書の下書きになる。会社と個人のお金の流れ全体を整理するときにも、同じリストが役に立つ。