決算の2〜3か月前になると、似た提案が続けて届く。法人保険、オペレーティングリース、倒産防止共済。
言い方もほぼ同じだ。「今期の利益を1,000万円圧縮できます」。
数字は分かりやすい。税金が減るなら、断る理由は少ないように見える。
ただ、この3つには共通点がある。どれも、支払った年に費用になり、戻ってきた年に収益になる。税金が消えるのではなく、税金を払う年が後ろにずれる。これが「繰延(くりのべ)」だ。
繰延が得になるか損になるかは、入口の圧縮額では決まらない。お金が戻る「出口」の年に、何の税金がかかり、それを何と相殺できるかで決まる。
この記事では、仮の計算で仕組みを確かめたうえで、3つの手法それぞれの出口で起きることと、提案を受けたときに確認する項目を整理する。
この記事が役に立つ方
- 毎年、決算前に節税商品の提案を受けているが、比べ方が分からない
- すでに法人保険や倒産防止共済に入っていて、解約のタイミングを決めていない
- 会社にはお金が残るのに、社長個人の手取りが増えている実感がない
繰延は「税金が減る」ではなく「払う年がずれる」
繰延型の節税商品は、どれも次の流れをたどる。
- 支払った年に、支払額の全部または一部が損金(税金の計算上の費用)になる
- その年の利益が減り、法人税等が減る
- 数年後、解約返戻金・分配金・売却代金としてお金が戻る
- 戻ったお金は、その年の益金(税金の計算上の収益)になる
1と2だけを切り取ると「節税」に見える。3と4まで入れると、今期払うはずだった税金を、出口の年に払う構造だと分かる。
もちろん、払う年をずらすこと自体に意味はある。手元資金を厚くしておける。利益が不安定な会社なら、良い年の利益を悪い年へ移せる。
ただし、手残りまで増えるのは出口の年の税負担が、入口の年より軽くなる場合に限られる。この記事では、それを「受け皿」と呼ぶ。受け皿がないまま出口を迎えると、入口で減らした税金が、出口でほぼそのまま戻ってくる。
入口の圧縮額だけで判断すると、手残りは減ることがある
仮の数字で確かめる。条件は次のとおり単純化する。
- 法人の実効税率を仮に34%とし、入口と出口で変わらないとする
- 今期、1,000万円を繰延型の商品に支払い、全額が損金になるとする
- 数年後、支払額の90%にあたる900万円が戻るとする
- 住民税均等割、手数料、運用期間中の金利・時間の価値は考えない
| ケース | 最終的に会社に残るお金 | 何もしない場合との差 |
|---|---|---|
| A 何もしない(1,000万円に課税) | 660万円 | ― |
| B 900万円が戻り、出口で課税 | 594万円 | −66万円 |
| C 1,050万円が戻り、出口で課税 | 693万円 | +33万円 |
| D 900万円が戻った年が赤字で、戻ったお金に税金がかからない | 900万円 | +240万円 |
※仮の条件による単純計算です。実際の税率・返戻率・損金算入の割合は、商品・契約時期・会社の状況によって異なります。
Bを見てほしい。入口では「340万円の節税」と説明される。しかし出口で900万円に34%がかかると、最終的な手残りは、何もしなかった場合より66万円少ない。
返戻率が100%を超えるCでも、差は33万円にとどまる。入口の説明にあった340万円とは、桁がひとつ違う。
数字が大きく変わるのはDだ。出口の年がもともと赤字なら、戻ったお金は赤字と相殺され、法人税はかからない。入口で34%分の税金を減らし、出口では払わずに済む。これが受け皿のある状態だ。
ここで注意したいのは、「出口の年に経費を増やせばいい」という意味ではないことだ。たとえば大きな経費が出る年でも、本業の利益がそれを上回っていれば、その経費は本業の利益から差し引かれるだけで、戻ったお金には通常どおり税金がかかる。見るべきは、出口の年の課税所得がどれだけ小さくなるかだ。
出口で相殺できるものがある年にだけ、繰延は効く
出口の年の課税所得が小さくなる状況として、主に次のようなものがある。
- 役員退職金を払う年:社長の退任・分掌変更の年は、退職金で大きな赤字になりやすい。ただし、不相当に高額な部分は損金にならない。受け取る個人の側では退職所得として課税される
- 大きな修繕や一時の費用が出る年:その年に損金になる支出が、本業の利益を上回るほど発生する場合
- 業績が下がる年:利益が小さい、または赤字の年に戻せば、かかる税金は小さくなる
- 繰越欠損金:過去の赤字が残っていれば、戻ったお金の益金と相殺できる
逆に言えば、利益が毎年同じ水準で続く会社は、どの年に戻しても同じ税率で課税されやすい。この場合、繰延で得られるのは、主に「支払いを先に延ばせる時間」だけになる。
よく使われるのは、役員退職金の年を出口に合わせる設計だ。退職金で赤字になる年に解約返戻金などを受け取り、赤字と相殺する。これは退任の時期がある程度見えていて、それが繰延商品の出口と重なる場合にだけ成り立つ。退任時期が決まっていないのに「退職金の年に戻せばいい」と言われたら、その年がいつなのかを確認したい。
法人保険・リース・共済、それぞれの出口で起きること
代表的な3つの手法について、出口で何が起きるかを整理する。制度の細部は改正されることがあるため、契約前に最新の取扱いを税理士と確認してほしい。
法人保険(定期保険・第三分野保険)
2019年の通達改正で、令和元年(2019年)7月8日以後の契約について、最高解約返戻率が50%を超える保険は、支払保険料の一部を資産に計上するルールになった。
- 最高解約返戻率 50%超〜70%以下:保険期間の前半4割の期間、支払保険料の40%を資産計上
- 最高解約返戻率 70%超〜85%以下:同じ期間、支払保険料の60%を資産計上
- 最高解約返戻率 85%超:当初10年間は「支払保険料×最高解約返戻率×90%」、その後は70%で資産計上
最高解約返戻率が70%以下で、年換算保険料相当額が被保険者1人あたり合計30万円以下の場合などは、別の取扱いになる。
ここから言えるのは、返戻率が高い保険ほど、入口で損金になる割合は小さいということだ。「全額損金」を前提にした古い説明のまま比べていないか、確認が必要になる。
出口では、解約返戻金と、資産に計上してきた金額との差額が益金になる。返戻率は加入からの年数で変わり、ピークを過ぎると下がる。解約の年を決めずに加入すると、受け皿のない年に解約するか、返戻率が下がるまで持ち続けるかの二択になりやすい。
オペレーティングリース(匿名組合方式)
航空機や船舶などをリースする事業に、匿名組合の出資者として参加する仕組みだ。事業の前半は減価償却などで損失が出やすく、出資者はその損失の分配を受ける。
後半になると、リース料収入が費用を上回って利益の分配が出る。最後に機体などを売却すれば、その売却益も分配される。前半の損失と後半の利益はセットであり、出口の利益は益金になる。
加えて、保険や共済にはない変動要因がある。
- 為替:外貨建ての案件では、戻るときの為替で手取りが変わる
- 売却価格:中古市場の相場で、最後の売却益が上下する
- 借り手の信用:リース先の航空会社・海運会社の経営状況に左右される
- 途中で抜けにくい:契約期間中の換金は原則として想定されていない
出口の時期は契約でおおむね決まるが、出口の金額は決まっていない。受け皿を準備していても、戻る金額が想定とずれることがある。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)
中小機構が運営する共済で、掛金は月額5,000円〜20万円、掛金総額800万円まで積み立てられる。法人の場合、掛金は損金に算入できる。
任意解約すると、納付月数に応じて解約手当金が戻る。12か月未満は掛け捨て、12か月以上で掛金総額の8割以上、40か月以上で全額が戻る。掛金を損金にしてきた場合、解約手当金は益金になる。
注意したいのは、2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払う掛金は損金に算入できない点だ。「800万円に達したら解約して、すぐ入り直す」という使い方は、以前と同じ効果にならない。
本来は取引先の倒産に備えて借入れができる制度で、借入限度は掛金総額の10倍(最高8,000万円)とされている。節税だけを目的に考えると、この本来の機能を見落としやすい。
出口の年を、加入する時点で書き出せるか
提案を受けたとき、次の5つを紙に書き出せるかどうかで判断すると、比較がしやすくなる。
- お金が戻るのは何年後か。解約や売却の予定年を、具体的な決算期で書けるか
- いくら戻るか。返戻率・分配額は保証か見込みか。為替や相場で変わるか
- その年の受け皿は何か。退職金による赤字・業績の落ち込み・繰越欠損金など、その年の課税所得が小さくなる理由があるか
- 受け皿がなかった場合、手残りはいくらか。上の表のBにあたる数字を出してもらえるか
- 途中で資金が必要になったらどうなるか。中途解約時の返戻額、借入れの可否、手数料
3と4に答えられない提案は、入口の数字しか説明していない。「いくら減るか」と「最後にいくら残るか」。どちらも、提案した相手に聞いてよい問いだ。
繰延を選ばないほうがよい条件もある
繰延が一律に悪いわけではない。ただ、次のような状況では、慎重に考えたほうがよい。
- 出口の年が決められない:退任時期も、大きな投資の予定も見えていない
- 利益が今後も同じ水準で続く見込み:どの年に戻しても、同じ税率で課税されやすい
- 手元資金に余裕がない:数年間まとまった資金が拘束され、急な支出に使えない
- すでに複数の繰延商品に入っている:出口が同じ年に重なり、受け皿が足りなくなる
- 目的が「今期の税金を減らすこと」だけになっている:手残りを増やす目的とずれていないか
繰延以外に、国内で検討できること
繰延は「会社の中でお金を寝かせる」手法だ。一方で、多くのオーナー経営者の悩みは「会社にはお金が残るが、自分が使えるお金が増えない」ことにある。その場合、検討の軸は次のようなものになる。
- 役員報酬の水準:法人税・所得税・社会保険料のバランスを、年単位ではなく数年単位で見る
- 役員退職金の準備:退任時期と金額の目安を決め、そこに向けて資金を積み上げる
- 資産管理会社や承継の設計:会社のお金を、家族や次の世代にどう移すかを含めて考える
どれも、繰延商品のように「今期いくら減る」とは言いにくい。その代わり、出口でお金がどこに行くかが最初から設計に入っている。
よくある疑問
Q. 顧問税理士が勧めてくれた商品なら、問題ないのでは?
税務上の処理が正しいことと、その会社の手残りが最大になることは、確認する項目が違います。処理の正しさは顧問税理士が確認できる領域です。出口の年と受け皿については、経営者自身の予定(退任時期・投資計画・承継)が関わるため、経営者の側から情報を出して一緒に確認するのが確実です。
Q. すでに加入している商品は、解約したほうがいいですか?
一概には言えません。途中で解約すると、返戻率が低い時期にあたって元本割れすることがあります。まずは上のチェックリストのうち、1〜3(戻る年・金額・受け皿)を書き出し、出口の計画があるかどうかを確認するところから始めてください。
Q. 返戻率が100%を超えるなら、必ず得になるのでは?
返戻率が100%を超えても、出口で課税されると、手残りの増加は小さくなります(上の表のC)。また、資金が拘束される期間の機会費用、為替や相場の変動、中途解約時の条件も含めて比べる必要があります。
「いくら減るか」から「どこで受け止めるか」へ
繰延型の節税商品は、入口の数字がはっきりしている分、出口の話が後回しになりやすい。
しかし、手残りを決めるのは出口だ。戻ったお金を、どの年に、何と相殺して受け止めるか。そこまで決まって、初めて入口の数字に意味が出る。
いま加入している商品、検討中の提案について、「このお金はいつ、どこで受け止めるのか」に答えられるだろうか。答えが出ないなら、それが最初に整理すべき論点になる。