決算前の保険提案で、逓増定期保険の設計書が出てくることがある。解約返戻率の推移がグラフで描かれ、「ピークは○年目、返戻率は○%」という山の頂上がいちばん目立つ位置にある。
以前は、この山の高さと「保険料の多くを損金にできる」という説明がセットで語られることが多かった。だが、2019年7月8日以後に契約した保険は、最高解約返戻率が高いほど、保険料のうち資産に計上する割合が大きくなる。入口で損金になる額が小さくなった分、出口の見え方も変わった。
この記事では、逓増定期保険の仕組み、2019年改正後の経理処理、解約返戻金を受け取ったときの益金の考え方、2021年に見直された名義変更の評価を順に整理する。見てほしいのは返戻率の山の高さではなく、解約する年に、返戻金と資産計上額の差がいくら益金になり、その年に何で受け止めるかである。
この記事が役に立つ方
- 逓増定期保険を提案され、2019年改正後の経理処理を理解してから判断したい
- 加入中の逓増定期保険について、解約する年をまだ決めていない
- 名義変更プランを勧められたことがあり、現在の取扱いを知りたい
逓増定期保険は、保険金額が契約後に増えていく定期保険だ
逓増定期保険は定期保険の一種で、保険期間の途中で死亡保険金の額が段階的に増えていく設計の保険だ。満期保険金はなく、保障は保険期間の終わりとともに終わる。
法人が契約者となり、社長を被保険者とする形で提案されることが多い。保障額が後に増える分、保険料には前払いの性格が強くなり、途中で解約すると解約返戻金が戻る。返戻率は加入からの年数とともに上がり、ある時点で最も高くなったあと、満期に近づくにつれて下がっていく。
保険金額が増えていく設計は、会社の規模が大きくなるにつれて社長に万一があったときの影響も大きくなる、という考え方と結びつけて説明されることが多い。保障の必要額が将来どう変わるかは、会社ごとに異なる。
この「返戻率の山」が、法人向けの提案で使われてきた理由だ。山の頂上付近で解約すれば、支払った保険料の多くが戻る。問題は、払った保険料と戻った返戻金が、税務上どう扱われるかである。
2019年7月8日以後の契約は、最高解約返戻率で資産計上の割合が決まる
国税庁は2019年(令和元年)6月に法人税基本通達を改正し、同年7月8日以後に契約した定期保険と第三分野保険の保険料の扱いを変えた。保険期間が3年以上で、最高解約返戻率が50%を超える保険は、保険料の一部を資産に計上する。区分は次のとおりだ(法人税基本通達9-3-5の2)。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産に計上する額 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|
| 50%超〜70%以下 | 保険期間の開始から4割の期間 | 当期分支払保険料の40% | 保険期間の75%経過後から終了まで |
| 70%超〜85%以下 | 同上 | 当期分支払保険料の60% | 同上 |
| 85%超 | 開始から、原則として最高解約返戻率となる期間の終了まで(5年未満なら5年) | 当期分支払保険料×最高解約返戻率×90%(開始から10年経過後は70%) | 解約返戻金相当額が最も高い期間の経過後から終了まで |
※2026年9月時点の国税庁タックスアンサーNo.5364-2をもとに要約しています。85%超の区分の資産計上期間には、返戻金の増え方に応じて延長される定めなど、細かな条件があります。
ここで基準になるのは、実際に解約する時点の返戻率ではなく、契約時に示された返戻率の推移の中で最も高い値だ。いつ解約するつもりでも、区分は契約の時点で決まる。
最高解約返戻率とは、契約時に示された解約返戻金相当額を、それを受け取るまでに払う保険料の合計で割った割合のうち、最も高いものをいう。なお、最高解約返戻率が70%以下で、年換算保険料相当額が被保険者1人あたり合計30万円以下の保険は、この表ではなく通常の定期保険の取扱いになる。
返戻率の高い逓増定期保険ほど、入口で損金になる部分は小さい
最高解約返戻率が85%を超える区分では、支払保険料の大半が資産に計上される。仮の数字で確かめる。
- 仮に年払保険料を1,000万円、最高解約返戻率を90%とする
- 加入から10年以内で、資産計上期間中の事業年度とする
- 法人の実効税率を仮に33%とし、短期前払費用などの処理は考えない
| 前提 | その年に損金になる額 | 税金への影響(33%) |
|---|---|---|
| 比較用:保険料の全額が損金になると仮定した場合 | 1,000万円 | −330万円 |
| 2019年7月8日以後の契約(最高解約返戻率90%) | 190万円 | 約−63万円 |
※仮の条件による単純計算です。資産計上額は1,000万円×90%×90%=810万円、損金は残りの190万円としています。
返戻率の山が高いほど、保険料の大部分は前払いの資産として帳簿に残る。入口で減る税金は、山の高さとは逆に小さくなる。改正後の逓増定期保険を見るときは、ここが出発点になる。
解約返戻金は「返戻金−資産計上累計額」が益金になる
解約したときは、それまで資産に計上してきた金額を取り崩し、受け取った解約返戻金との差額を益金(差額がマイナスなら損金)とするのが基本的な処理だ。前の例を続ける。
- 仮に5年間払い込み(合計5,000万円)、5年目の終わりに解約して返戻率90%の4,500万円を受け取るとする
- 5年間の資産計上累計額は810万円×5年=4,050万円、損金になった額は190万円×5年=950万円とする
- 税引前の利益は5年間で合計5,000万円、税率は仮に33%で一定とし、死亡保障の価値や途中の返戻率の推移は考えない
| 項目 | 何もしない | 逓増定期保険(5年で解約) |
|---|---|---|
| 5年間の保険料 | ― | 5,000万円 |
| 解約返戻金 | ― | 4,500万円 |
| 解約時の益金(4,500万円−4,050万円) | ― | 450万円 |
| 5年間の法人税等 | 1,650万円 | 1,485万円 |
| 最終的に会社に残るお金 | 3,350万円 | 3,015万円(−335万円) |
※仮の条件による単純計算です。実際の資産計上額・返戻率・税率は、商品・契約時期・会社の状況によって異なります。
会社に残るお金は、何もしない場合より335万円少ない。その内訳は、戻らなかった保険料500万円と、それに対応して減った税金165万円だ。その代わりに得ているのは、5年間の死亡保障である。
改正後の契約では、解約時の益金は「返戻金と資産計上累計額の差」に縮んでいる。入口で大きく減らし、出口で大きく戻す、という繰延の幅そのものが小さくなった。そのため、逓増定期保険を選ぶかどうかは、税金の繰延よりもその保障が会社に必要かどうかで判断する比重が大きくなっている。
また、85%超の区分では、取崩期間は返戻金が最も高い期間を過ぎてから始まる。ピークを過ぎて持ち続ければ資産計上額が少しずつ損金に戻っていくが、その間に返戻金自体は下がっていく。
名義変更プランは、2021年7月1日以後は資産計上額で評価される
かつて提案されていたのが、名義変更プランだ。解約返戻金が極端に低い期間に、法人が契約者の地位を社長個人に移し、返戻金が高くなってから個人で解約する、という流れである。
法人から個人へ保険契約の権利を移すとき、その権利は原則として、移転時の解約返戻金の額で評価される。返戻金が低い時期に移せば、評価額も小さくなる。
国税庁は2021年(令和3年)6月25日に所得税基本通達36-37を改正し、2021年7月1日以後の権利の移転について、移転時の解約返戻金が法人の資産計上額の70%未満である場合は、資産計上額で評価するとした。復旧できる払済保険に変更してから移す場合も、元の契約の資産計上額をもとに評価する定めが置かれた。
別の仮の数字で当てはめてみる。資産計上累計額が3,000万円の契約を、解約返戻金が500万円しかない時期に社長個人へ移すとする。500万円は3,000万円の70%(2,100万円)に届かないため、評価額は500万円ではなく3,000万円になる。返戻金の低さを使って安く移す余地は、大きく狭まった。
法人から別の法人に権利を移す場合も、この通達に準じて扱うとされている。低い返戻金で評価して移すという設計の前提は、この改正で大きく変わった。
なお、個人が契約者として解約返戻金を受け取ると、保険料の負担者と受取人が同じ場合は、一時所得として所得税の対象になる。個人の側にも、出口の税金がある。
2019年7月8日前の契約には、改正前の取扱いが続く
国税庁のFAQでは、改正後の取扱いは2019年7月8日以後の契約に適用され、それより前の契約にさかのぼって適用されることはないとされている。加入中の古い契約は、改正前の通達や個別通達の取扱いの例による。
ただし、改正前の契約でも、改正後に転換・払済保険への変更・契約の更新をした場合は、改正後の取扱いによるとされている。古い契約の条件を前提にした説明のまま、契約内容を変えないよう注意したい。
改正前の契約は、商品や契約時期によって損金にしてきた割合が異なる。資産計上額が小さい契約ほど、解約時に益金になる額は大きくなる。長く持っている契約ほど、決算書の保険積立金の残高と、解約返戻金の見込み額を並べて確認しておきたい。
逓増定期保険の出口は、解約する年の受け皿で決まる
加入中・検討中の逓増定期保険について、次の6つを書き出してみてほしい。
- 契約日が2019年7月8日の前か後か
- 最高解約返戻率と、表のどの区分にあたるか
- 現在の資産計上累計額(決算書の保険積立金など)
- 解約予定年の解約返戻金と、差額として益金になる見込み額
- 解約予定年の受け皿(役員退職金による赤字、繰越欠損金など)
- ピークを過ぎても持つ場合の、返戻金と取崩額の推移
1と2は保険証券や設計書で確認できる。3と4は、顧問税理士と保険会社の担当者から数字をもらえる。5は経営者自身の予定に関わるため、経営者の側から情報を出す必要がある。
よく使われるのは、社長の退任時期に解約を合わせ、役員退職金で赤字になる年に益金を受け止める設計だ。解約返戻金を退職金の原資にする考え方は、社長の手取りを増やす方法で整理した「お金の出口」の組み合わせとも関わる。
よくある疑問
Q. 逓増定期保険の経理処理は、2019年より前の契約も変わりましたか?
変わりません。国税庁のFAQでは、改正後の取扱いは2019年7月8日以後の契約に適用され、それより前の契約にさかのぼることはないとされています。ただし、改正後に転換・払済保険への変更・更新をすると、改正後の取扱いになるとされています。
Q. 解約返戻金のピークで解約するのが、いちばん得ですか?
ピークは返戻金の額が最も大きい時点ですが、手残りは、解約した年の益金にかかる税金で変わります。ピークの年が本業の利益の大きい年と重なる場合は、前後の年の受け皿と比べる余地があります。返戻率の推移表と自社の利益見込みを並べて確認してください。
Q. 名義変更プランは、今でも使えますか?
名義変更そのものが禁止されたわけではありません。ただ、2021年7月1日以後は、解約返戻金が資産計上額の70%未満の時期に移すと、資産計上額で評価されます。返戻金の低い時期に移して評価額を下げる、という前提は成り立ちにくくなっています。個別の評価は顧問税理士に確認してください。
「返戻率の山の高さ」から「解約する年の益金」へ
逓増定期保険の設計書は、返戻率の山を見せるように作られていることが多い。
しかし改正後の契約では、山が高いほど入口の損金は小さく、出口で益金になるのは返戻金と資産計上額の差になる。見るべきは、どの年に解約し、その年に差額をどう受け止めるかだ。
加入中の保険について、契約日と資産計上累計額を即答できるだろうか。答えが出なければ、決算書の保険積立金の内訳を確認するところから始めてほしい。