決算書の貸借対照表を見ると、純資産の部に「利益剰余金」がある。創業から積み上げてきた利益の合計で、一般に内部留保と呼ばれるものだ。

その数字が1億円を超えていると、「会社には1億円ある」と感じる。ところが預金通帳を見ると、そこまでの残高はない。

これは珍しいことではない。内部留保は、お金の残高ではなく、利益を積み上げた「記録」だからだ。その利益は、預金として残っていることもあれば、売掛金や在庫、建物や機械に姿を変えていることもある。

内部留保の活用方法を考えるとき、最初に確かめたいのは金額ではない。それが今どんな形で会社の中にあり、最終的にどの出口から出ていくのかだ。

この記事では、利益剰余金と現預金の違いを確認したうえで、内部留保の主な使い道を4つに分け、それぞれの出口と税金、そして事業承継のときの株価への影響を整理する。

この記事が役に立つ方

  • 利益剰余金は大きいのに、社長個人の資産が増えている実感がない
  • 内部留保を「どう使うか」について、金融機関や保険の提案を受けている
  • いずれ子どもや後継者に会社を引き継ぐことを考えている

内部留保は「利益剰余金」のことで、現金の残高ではない

内部留保という言葉に、法律上の定義はない。一般には、貸借対照表の純資産の部にある利益剰余金を指すことが多い。

利益剰余金は、毎年の税引後の利益から配当などを差し引いた残りを、創業から積み上げたものだ。「過去にこれだけ利益を出し、社外に出さずに残してきた」という記録であって、特定の資産を指す数字ではない。

一方、現預金は貸借対照表の資産の部にある、実際に使えるお金だ。この2つは、帳簿の別の場所に載っている。

そのため、利益剰余金が1億円あっても、現預金が3,000万円しかないことは普通に起こる。逆に、借入で資金を集めていれば、利益剰余金より現預金のほうが多いこともある。「内部留保を使う」と言うとき、実際に動かせるのは現預金の部分だけになる。

内部留保の中身を、現預金・売掛金・在庫・設備に分けて見る

積み上げた利益が今どこにあるかは、資産の部を見ると分かる。主に次のような形に分かれている。

  • 現預金:すぐに使える。活用の選択肢が最も広い
  • 売掛金・受取手形:回収すれば現金になるが、回収までの時間と貸し倒れのリスクがある
  • 在庫:売れれば現金になる。売れ残れば価値が下がる
  • 建物・機械・車両などの設備:事業に使われており、簡単には現金にできない
  • 保険積立金・有価証券・貸付金など:解約や売却、回収で現金になるが、条件がある

たとえば、売上が伸びている会社ほど売掛金と在庫が増え、利益は出ているのに現金が増えない、という状態になりやすい。内部留保の「厚さ」と「使える現金の量」は一致しない。

活用方法を考える前に、利益剰余金の額と、現預金のうち運転資金として必要な額を除いた「自由に使える額」を並べて書き出しておきたい。

内部留保の活用方法は4つ。個人に移す・会社に残す・投資する・借入を返す

自由に使える現預金の使い道は、大きく4つに分けられる。それぞれ、税金がかかる場面と、最後にお金が行き着く先が違う。

使い道主な方法税金がかかる場面お金の行き先
① 個人に移す役員報酬・配当・役員退職金受け取る社長の所得税・住民税(配当は法人税を払った後の利益から出す)社長個人
② 会社に残す預金のまま、運転資金・退職金原資として保持残した時点では追加の税金なし。いずれ①〜④のどれかで出る会社(将来の株価に反映)
③ 投資する設備投資・有価証券や不動産の取得減価償却などで費用化される時期、運用益や売却益が出る時期事業の資産・収益
④ 借入を返す金融機関からの借入の繰上返済返済自体は費用にならない。利息負担が減る金融機関(負債の減少)

※2026年9月時点の一般的な取扱いです。個別の税務上の扱いは、方法や状況によって異なります。

注意したいのは、③の投資と④の借入返済は、利益剰余金を減らさないことだ。どちらも現金が別の資産に変わるか、負債が減るだけで、利益の記録である利益剰余金はそのまま残る(取得した資産の減価償却などは、その後の年の費用になる)。

利益剰余金そのものが減るのは、損失が出たとき、または配当などで株主に分配したときだ。役員報酬や退職金は、支払った年の費用として利益を小さくする形で、将来の利益剰余金の積み上がりを抑える。

個人に移す出口は、報酬・配当・退職金で税金の重さが違う

会社のお金を社長個人に移す場合、主な出口は役員報酬・配当・役員退職金の3つだ。

役員報酬は会社の損金になるが、受け取る側では給与所得として累進課税(所得税5〜45%+住民税10%)の対象になり、社会保険料もかかる。また、定期同額給与として損金にするには、原則として事業年度開始から3か月以内に改定し、毎月同額で支払う必要がある。

配当は、法人税を払った後の利益から支払うもので、会社の損金にならない。非上場会社の配当は受け取る社長の側で総合課税の対象になり、給与などと合算して課税される(配当控除はある)。支払いの際には20.42%の所得税等が源泉徴収される。法人税と所得税の両方がかかる出口だ。

役員退職金は、不相当に高額な部分を除いて会社の損金になり、受け取る側では退職所得として、退職所得控除を引いた額の2分の1が課税の対象になる(役員としての勤続5年以下は2分の1なし)。退職金の計算の考え方は役員退職金の計算方法の記事で整理している。

3つの出口の違いと組み合わせ方は、社長の手取りを増やす方法で詳しく扱っている。内部留保の話としては、「会社に残したお金は、いずれこの3つのどれかを通る」と押さえておけば足りる。

会社に残すなら、何のために残すかで持ち方が変わる

会社に残すこと自体は、悪い選択ではない。不況時の備え、将来の投資、退職金の原資。残す理由がはっきりしていれば、内部留保は会社を守る資金になる。

ただし、理由によって適した持ち方が違う。

  • 運転資金・不況への備え:すぐに引き出せる預金で持つ。売上の何か月分を置くかを決めておく
  • 数年後の設備投資:時期と金額の見込みに合わせて確保する
  • 役員退職金の原資:退任の予定年に合わせて準備する。退職金を支給する年は、会社の利益と資金が大きく減る

一方、理由が決まらないまま残っている内部留保は、使い道も出口も決まっていない。そのまま年数がたつと、次に見る承継のときの株価として効いてくる。

保険や金融商品で持つなら、戻ってくる年の税金まで見る

内部留保の活用として、法人保険やオペレーティングリース、倒産防止共済などを勧められることがある。「預金で寝かせるより、今期の利益も減らせる」という説明が多い。

これらの多くは、支払った年に損金になり、戻ってきた年に益金になる繰延型の仕組みだ。戻ってきたお金は、その年の利益として法人税の対象になる。退職金の支給などで利益が小さくなる年に戻せれば負担は軽くなるが、利益が続く年に戻れば、入口で減った税金が出口でほぼ戻ってくる。

また、預金と違い、途中で解約すると戻る額が支払額を下回る時期がある。運転資金や不況への備えとして残したい部分を、こうした商品に回すと、いざというときに使いにくい。

保険や金融商品で持つかどうかは、戻ってくる年と、その年に何と相殺するかを書き出せるかで判断したい。詳しい考え方は繰延型の節税商品のデメリットで整理している。

内部留保が厚いほど、承継のときの株価は高くなりやすい

非上場会社の株式(取引相場のない株式)を相続や贈与で引き継ぐとき、その価額は国税庁の定める方法で評価される。オーナー経営者のような同族株主が取得する場合、会社の規模に応じて次の方式を使う。

  • 類似業種比準方式:類似業種の株価をもとに、「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3つで比べて評価する(主に大会社)
  • 純資産価額方式:会社の資産を相続税評価に置き換え、負債などを差し引いた残りで評価する(主に小会社)
  • 中会社は、この2つを併用する

どちらの方式にも、純資産が入っている。利益剰余金は純資産の一部なので、内部留保が積み上がるほど、株式の評価額は上がりやすい。

純資産価額方式では、資産の含み益(評価差額)に対する法人税額等相当額を差し引く計算がある。この割合は、防衛特別法人税の創設に伴い、2026年4月1日以後の相続・贈与による取得分から37%から38%に改められた。

逆に、役員退職金を支給した年は、利益と純資産がともに減るため、株価の計算要素が小さくなる。承継の時期と退職金の時期をどう並べるかは、株価の面からも検討の対象になる。「会社に残す」判断は、将来の相続・贈与の税金とつながっている。

内部留保の使い道を決めるための確認リスト

次の項目を書き出すと、内部留保をどう扱うかの判断材料がそろう。

  1. 利益剰余金の額と、現預金の額はそれぞれいくらか。差はどの資産に変わっているか
  2. 運転資金として置いておく額はいくらか。売上の何か月分を基準にするか
  3. 数年以内の投資予定はあるか。時期と金額の見込み
  4. 社長が個人として必要なお金はいくらか。報酬で足りているか
  5. 退任と承継の時期の目安はいつか。退職金の年と、株式を引き継ぐ年

1で「自由に使える額」を出し、2と3で会社に残す額を決める。残りを4と5に照らして、どの出口から、いつ出すかを考える。活用方法は、この5つの答えから逆算して選ぶものになる。

よくある疑問

Q. 内部留保が多すぎると、税金で不利になりますか?

内部留保そのものに毎年課税されるわけではありません。ただし、積み上がるほど承継時の株価が上がりやすく、相続税・贈与税の負担に影響します。また、いずれ個人に移す場合は、報酬・配当・退職金のどの出口でも個人側の課税があります。残す理由と出口をあわせて検討することが大切です。

Q. 内部留保の活用として、設備投資をすれば税金が減りますか?

設備投資は、減価償却などを通じて費用になる時期が決まっており、支出した年に全額が費用になるとは限りません。また、現金が設備に変わるだけで利益剰余金は減りません。税金の面だけでなく、その投資が事業の収益につながるかどうかを軸に判断するのが基本です。

Q. 内部留保を社長個人に移すには、配当が一番簡単ですか?

手続きとしては比較的シンプルですが、配当は法人税を払った後の利益から出し、受け取る側でも総合課税の対象になるため、税負担が重くなりやすい出口です。役員報酬や役員退職金と比べて、どの組み合わせが自社に合うかを顧問税理士と試算してから決めることをおすすめします。

「いくら貯まったか」から「どの形で、どの出口へ」へ

内部留保は、会社が利益を出し続けてきた証拠だ。ただ、その数字だけを見ても、使えるお金の量も、社長の手元に届く額も分からない。

確かめたいのは、内部留保が今どんな資産の形で会社にあり、最後にどの出口を通って、誰の手元に行くのかだ。報酬か、配当か、退職金か。それとも株式として次の世代に引き継ぐのか。

決算書の利益剰余金の数字を見たとき、そのうちいくらを、いつ、どの出口から出すかを答えられるだろうか。答えられない部分が、これから整理すべき内部留保になる。