社長は、月に何度も出張する。取引先との打ち合わせ、工場や店舗の視察、展示会。交通費と宿泊費は会社で精算しているが、それ以外の細かな出費は自分の財布から出している。

そこで「旅費規程を作って日当を出せばいい」と聞く。では、社長の日当はいくらにすればいいのか。検索すると、さまざまな「相場」の数字が出てくる。

この記事では、旅費規程に基づく日当が所得税の対象外とされる要件を、所得税法と国税庁の通達に沿って確認する。そのうえで、日当の相場の考え方、役員と従業員の差、海外出張、規程の作り方と運用記録、否認されやすい例を整理する。

先に方向を示しておく。法令にも通達にも、日当の金額の上限は書かれていない。判断の物差しは、社内のバランスと、同業種・同規模の会社との比較だ。

そのため、見るべきは「相場の数字」ではなく、自社の基準を、出張の記録とあわせて説明できるかになる。

この記事が役に立つ方

  • 出張が多いが、旅費規程がない、または何年も見直していない
  • 社長の日当をいくらに設定すればよいか、根拠を持って決めたい
  • 海外出張や、家族役員の出張の扱いを整理したい

旅費規程に基づく日当は、通常必要な範囲なら所得税の対象外とされている

所得税法第9条は、所得税を課さない所得を列挙している。その第1項第4号に、出張の旅費が含まれる。要約すると、次の内容だ。

給与所得を有する者が、勤務する場所を離れて職務を遂行するために旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの

日当は、出張中の食事や雑費など、細かな支出に充てるための定額の支給だ。この条文の「旅行に必要な支出に充てるため支給される金品」に当たり、通常必要と認められる範囲内であれば、受け取った役員や従業員の給与として扱われない。

会社の側では、旅費として損金になる。消費税では、国内出張の日当のうち通常必要と認められる部分は課税仕入れとなり、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができるとされている。

逆に、通常必要な範囲を超えた部分は、給与として課税される。社長など役員の場合、給与とされた部分は定期同額給与などに当たらないため、会社の損金にもならないおそれがある。

「通常必要な範囲」は、社内のバランスと同業・同規模との比較で判断される

では、何をもって「通常必要」とするのか。所得税基本通達9-3は、旅行の目的、目的地、行路、期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容や地位などから見て、通常必要な範囲かどうかを判定するとしたうえで、次の2つを勘案するとしている。

  1. その支給額が、会社の役員と使用人のすべてを通じて、適正なバランスが保たれている基準で計算されているか
  2. その支給額が、同業種・同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当か

通常必要とされる範囲を超えて支給した部分は、その超える部分が給与所得の収入金額になる(所得税基本通達9-4)。日当の全額ではなく、超えた部分が問題になる点も押さえておきたい。

ここから言えることは2つある。1つは、日当の判断に「全国共通の上限額」は用意されていないこと。もう1つは、社長だけの規程では、1の要件を説明しにくいことだ。旅費規程は、役員と従業員の全員を対象に作る必要がある。

日当の相場は「金額の平均」より「自社で説明できる基準」で考える

「旅費規程 日当 相場」で検索すると、民間の調査や記事による金額が見つかる。参考にはなるが、どれも公的な上限ではない。通達が求めているのは、自社と同業種・同規模の会社との比較だ。売上規模も業種も違う会社の平均額を、そのまま当てはめることはできない。

自社の基準を考えるときは、次の材料をそろえておくと説明しやすい。

  • 出張中に実際にかかっている食事代・雑費のおおよその額
  • 同業者団体や取引先から聞ける、同規模の会社の水準
  • 日帰りと宿泊、近距離と遠距離で、負担がどう違うか

公務員の旅費制度を参考にする考え方もある。ただし、国家公務員の旅費制度は2025年4月に改正され、従来の「日当」は「宿泊手当」に改められた。昼食代は通常の勤務でもかかる費用として支給対象から外し、宿泊を伴う出張に一夜あたりの定額を支給する形になっている。以前の公務員の日当を参考に規程を作った会社は、見直しの際に前提が変わっている点に注意したい。

仮に、日当1万円で年60日出張する社長なら、日当は年60万円になる。同じ60万円を役員報酬で受け取り、所得税・住民税の税率が合計で仮に44%程度の層にいるなら、手取りの差は約26万円だ。金額を大きくしようとするより、否認されない水準で続けられるかのほうが、長い目で見た差は大きい。

※仮の条件による単純計算です。社会保険料や住民税の控除の違いは考慮していません。

役員と従業員の日当の差は、職務と地位で説明できる幅にとどめる

通達は「旅行者の職務内容及び地位等」を考慮するとしている。役員の日当を従業員より高く設定すること自体は、一般に行われている。

問題になりやすいのは、差の大きさだ。たとえば従業員の日当が2,000円なのに、社長だけ2万円といった設計は、「全員を通じた適正なバランス」を説明しにくい。差をつけるなら、次のような点で理由を示せるようにしておきたい。

  • 役員は取引先との会食や移動の都合で、出張中の支出が多くなりやすい
  • 役職ごとに段階を設け、社長・役員・管理職・一般社員と連続した表になっている
  • 宿泊費の上限も、同じ考え方で役職ごとに設定している

宿泊費を定額で支給する場合も同じ考え方になる。定額そのものは問題ではないが、実際に泊まっているホテルの料金と大きくかけ離れた額が続くと、通常必要な範囲を説明しにくくなる。定額の水準は、数年に一度、実際の宿泊料金と照らして見直しておきたい。

社長と家族役員だけの会社でも、考え方は同じだ。将来従業員を雇ったときにそのまま使える表になっているかを、ひとつの目安にするとよい。

海外出張の日当は、業務の必要性と期間の按分がポイントになる

海外出張の旅費について、法人税基本通達は国内より詳しく定めている。要点は次のとおりだ。

  • 海外渡航が業務の遂行上必要で、かつ通常必要と認められる部分に限り、旅費として扱う。超える部分は原則として役員・使用人への給与になる
  • 観光渡航の許可を得て行う旅行や、旅行会社の団体旅行への参加、同業者団体が主催する主として観光目的の旅行は、原則として業務上必要な渡航に当たらない
  • 業務と観光を併せて行った場合は、旅行期間の比などで按分し、観光部分は給与とする。ただし、取引先との商談など業務が渡航の直接の動機であれば、往復の旅費は業務上必要なものとして扱える
  • 役員が親族などを同伴した場合、その旅費は原則として役員への給与になる

海外の日当を国内と分けて定める場合も、通常必要な範囲かどうかは同じ考え方で問われる。海外では業務と私的な行動の境目が見えにくいぶん、日程表・面談先・業務内容の記録が重要になる。なお、消費税では、海外出張の日当などは原則として課税仕入れにならない。

旅費規程の作り方と、運用で残しておく記録

旅費規程は、作った後の運用で評価が決まる。作るときに入れておきたい項目は次のとおりだ。

  1. 適用範囲:役員と全従業員を対象にする
  2. 出張の定義:どこからを出張とするか(距離や所要時間など)、日帰りと宿泊の区分
  3. 支給項目と金額:交通費(実費)、宿泊費(上限または定額)、日当を役職別に表で示す
  4. 海外出張の扱い:地域別の日当、航空券の座席クラスの基準
  5. 精算の手続き:出張報告書の提出、領収書の保存、承認者
  6. 施行日と改定の手続き:取締役会や株主総会で決議し、議事録を残す

日当と実費精算の関係も整理しておく。日当は出張中の食事や雑費に充てる定額の支給なので、同じ出張の昼食代などを別に実費で精算すると、二重の支給と見られやすい。日当で賄う費用と、実費で精算する費用の線引きを、規程のなかで明文化しておくとよい。

運用では、出張ごとに日付・行き先・目的・面談した相手を記録した出張報告書を残す。交通機関や宿泊の領収書、予約の記録もあわせて保存しておくと、日当を支給した出張が実際に行われたことを説明できる。

社宅や家族への報酬と同じく、旅費規程も「規程と実態がそろって初めて機能する」制度だ。会社から個人にお金が届く道の全体像は、社長の手取りを出口で整理した記事で扱っている。

否認されやすいのは、規程と実態がずれている支給

税務調査で問題になりやすい例を挙げる。どれも、金額そのものより「説明できない」ことが原因だ。

  • 旅費規程がない、または規程にない名目で日当を支給している
  • 社長だけ日当が突出して高く、従業員との差を説明できない
  • 出張報告書がなく、日当を支給した日に出張した事実を示せない
  • 日当を出張の有無と関係なく、毎月定額で支給している
  • 観光が中心の旅行や、家族同伴の旅行の費用を旅費として処理している
  • 決算前に規程の金額を引き上げ、過去の出張にさかのぼって支給している

否認されると、社長個人には給与として所得税・住民税がかかり、会社では損金にならない。源泉徴収漏れとして会社が追加で納付を求められることもある。日当を増やすより、記録を整えることが当面の課題になっている会社は少なくない。

よくある疑問

Q. 旅費規程の日当は、社長ならいくらが相場ですか?

法令や通達に金額の上限はなく、公的な「相場」もありません。通達は、社内の役員・使用人を通じたバランスと、同業種・同規模の会社の支給水準との比較で判断するとしています。民間の調査などの金額は参考にとどめ、自社の実際の出張負担と役職ごとのバランスから基準を決めることをおすすめします。

Q. 社長一人の会社でも、旅費規程を作って日当を出せますか?

作ることはできます。ただし、支給額が通常必要な範囲かどうかは、同業種・同規模の会社との比較や、出張の実態で判断されます。将来従業員を雇ったときにもそのまま使える役職別の表にしておき、出張報告書などの記録を残しておくと説明しやすくなります。

Q. 日帰り出張でも日当を支給できますか?

旅費規程で日帰り出張の日当を定め、その旅行について通常必要と認められる範囲であれば支給できます。一般に、宿泊を伴う出張より低い金額にするなど、負担の違いに応じた設定にします。近距離の移動にまで日当を支給すると、通常必要な範囲の説明が難しくなるため、出張とする距離や時間の基準を規程で定めておくことが大切です。

日当は「金額」ではなく「説明できる仕組み」で決まる

旅費規程に基づく日当は、通常必要な範囲であれば給与として扱われない。その範囲に全国共通の上限額はなく、社内のバランスと、同業・同規模の会社との比較で判断される。

だから、相場の数字を探すより、自社の出張の実態から基準を作り、役員と従業員を通じた表にし、出張ごとの記録を残すことが、結果として日当を使い続けるための条件になる。

いま社長が受け取っている日当について、直近1年分の出張報告書をすぐに出せるだろうか。出せないなら、見直す対象は金額ではなく記録のほうだ。