小規模企業共済は「個人事業主の退職金」と紹介されることが多い。そのため、法人の社長は自分には関係ないと思っていることがある。

実際には、従業員数などの要件を満たす会社の役員なら、法人の社長も加入できる。掛金は月1,000円から7万円までで、全額が社長個人の所得控除になる。

ここまでは、多くの紹介記事に書かれている。見落とされやすいのは、その先だ。

小規模企業共済は、どんな理由で、何歳で、どう受け取るかによって、受け取れる金額も、かかる税金の種類も変わる。65歳未満で役員を退いた場合と、65歳以上で退いた場合とでは、共済金の種類が違う。途中で解約すれば、20年未満では掛金の合計を下回る。

この記事では、法人役員の加入要件と掛金の控除を確認したうえで、共済金の種類・受け取り方と税金・途中解約・貸付制度・倒産防止共済との違いを整理する。見るべきは、毎年の控除額より、最後に受け取る場面だ。

この記事が役に立つ方

  • 法人の社長として、小規模企業共済に入れるかどうか知りたい
  • すでに加入しているが、いつ・どう受け取るかを決めていない
  • 倒産防止共済との違いがあいまいなまま、両方を勧められている

小規模企業共済は、要件を満たせば法人の社長・役員も加入できる

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、小規模企業の経営者や役員のための退職金制度だ。法人の役員が加入するには、会社の常時使用する従業員数が次の範囲に収まっている必要がある(2026年9月時点)。

  • 建設業・製造業など:20人以下
  • 商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く):5人以下
  • 宿泊業・娯楽業:20人以下

あわせて、役員として登記され、事業に従事していることが条件になる。代表者以外の役員も、登記されていれば対象だ。

一方、次のような人は加入できないとされている。

  • 役員として登記されていない人
  • 使用人兼務役員(部長などを兼ねる役員)
  • 合同会社などで、業務執行権のない役員

社長自身の加入は多くの場合で問題にならないが、従業員数の要件は業種によって5人と20人で大きく違う。サービス業の会社で人を増やしている場合は、加入時点の要件を確認しておきたい。

掛金は月1,000〜7万円。全額が社長個人の所得控除になる

掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位で選べる。加入後の増額・減額もできる。

払った掛金は、その年に支払った全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引かれる。役員報酬から掛金を払えば、その分だけ所得税・住民税の対象になる所得が小さくなる。

軽くなる税額は、社長の税率によって変わる。仮に、掛金を上限の月7万円(年84万円)とし、所得税と住民税の税率だけで単純に計算すると、次のようになる。復興特別所得税は含めず、住民税は一律10%とする。

課税所得の区分(所得税の税率)所得税+住民税の税率年84万円の控除で軽くなる税額(概算)
195万円超〜330万円以下(10%)20%約16.8万円
330万円超〜695万円以下(20%)30%約25.2万円
900万円超〜1,800万円以下(33%)43%約36.1万円
1,800万円超〜4,000万円以下(40%)50%約42.0万円

※仮の条件による単純計算です。控除額が税率の区分をまたぐ場合や、ほかの控除との関係で実際の金額は変わります。

ここで押さえたいのは、掛金は会社の損金ではなく、社長個人の所得控除だという点だ。会社の法人税は減らない。役員報酬を受け取った後の、個人の側で使う制度になる。

受け取れる共済金は「退任の理由と年齢」で種類が変わる

会社の役員が受け取るお金は、請求の事由によって次の4種類に分かれる(中小機構の案内による)。

  • 共済金A:会社が解散した場合(破産を含む)
  • 共済金B:疾病・負傷で役員を退任した場合、65歳以上で役員を退任した場合、本人が死亡した場合、65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ場合(老齢給付)
  • 準共済金:解散や疾病・負傷によらず、65歳未満で役員を退任した場合
  • 解約手当金:任意解約した場合、掛金を12か月以上滞納して解約になった場合

種類によって、受け取れる金額が違う。中小機構が示している、掛金月額1万円で加入した場合の例は次のとおりだ。

掛金納付年数(掛金合計)共済金A共済金B準共済金
10年(120万円)129万600円126万800円120万円
20年(240万円)278万6,400円265万8,800円241万9,500円

※中小機構の案内に掲載された基本共済金の例です(付加共済金は含みません)。

同じ20年の加入でも、65歳以上で退任すれば共済金B、65歳未満で退任すれば準共済金となり、受取額に差が出る。退任の時期を考えるときは、共済金の種類がどちらになるかも一緒に確認しておきたい。

一括なら退職所得、分割なら公的年金等。受け取り方で税金が変わる

受け取るときの課税は、受け取り方で分かれる。

  • 共済金・準共済金を一括で受け取る:退職所得
  • 共済金を分割で受け取る:公的年金等の雑所得
  • 一括と分割を併用する:一括分は退職所得、分割分は公的年金等の雑所得
  • 65歳以上で任意解約する:退職所得
  • 65歳未満で任意解約する:一時所得
  • 本人の死亡で遺族が受け取る:みなし相続財産(相続税の対象)

分割で受け取れるのは、共済金A・Bで死亡以外の事由の場合、請求事由が生じた日に60歳以上で、共済金の額が300万円以上(併用なら330万円以上)の場合に限られる。

一括で受け取る場合は退職所得となり、退職所得控除を引いた後の2分の1が課税の対象になる。分割の場合は、公的年金など、ほかの年金収入と合算して毎年課税される。どちらが有利かは、受け取る年のほかの所得と、役員退職金の予定によって変わる。

役員退職金と同じ年に一括で受け取ると、控除は合算で計算される

法人の社長の場合、多くは会社からの役員退職金も予定している。ここで注意したいのが、受け取る年の重なりだ。

同じ年に2か所以上から退職手当等を受け取ると、退職金の額は合計され、退職所得控除は最も長い勤続期間を基準に計算される(重複しない期間は加算)。控除が2回分使えるわけではない。

また、前年以前4年以内に受け取った退職手当等がある場合も、勤続期間の重複部分について控除額が調整される。確定拠出年金(iDeCoなど)の老齢一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合は、2026年1月以後に受け取る老齢一時金から、調整の対象になる期間が前年以前4年から9年に延びた。

小規模企業共済の一括受け取りと役員退職金、iDeCoの一時金。どれを、どの年に受け取るかで、同じ金額でも手取りが変わる。退職金の計算の考え方は役員退職金の計算方法の記事でも整理している。

途中解約は、20年未満だと掛金の合計を下回る

任意解約した場合の解約手当金は、掛金の納付月数に応じて、納付した掛金の80%から120%に相当する額だ。中小機構は、次の点を明示している。

  • 掛金納付月数が12か月未満で解約すると、解約手当金は受け取れず、掛金は掛け捨てになる
  • 掛金合計の100%以上を受け取れるのは、納付月数が240か月(20年)以上から
  • 240か月未満で任意解約すると、掛金合計額を下回る

たとえば掛金月額1万円で5年納付した場合、掛金合計60万円に対して、解約手当金は48万円とされている。さらに、65歳未満で任意解約した解約手当金は一時所得として課税される。

毎年の所得控除で税金が軽くなっていても、途中でやめればその分が戻ってくる形になりやすい。加入するときは、20年以上続けられる掛金額かどうかを基準に選ぶのが現実的だ。資金繰りが心配なら、減額や、次に見る貸付制度もある。

貸付制度で、掛金の範囲内の事業資金を借りられる

加入者は、納付した掛金から算定した貸付限度額の範囲内で、事業資金を借りられる。一般貸付のほか、傷病災害時・創業転業時・福祉対応・緊急経営安定・事業承継・廃業準備といった特別貸付がある。

中小機構が2026年9月時点で掲載している利率は、一般貸付が年1.5%、特別貸付が年0.9%だ。利率は金利情勢などを踏まえて設定されるため、利用するときに最新の数字を確認したい。

急な資金需要があるときに、解約せずに資金を用意できる手段として知っておくとよい。ただし、借りたお金は返済が前提であり、延滞した場合の利子も定められている。

倒産防止共済とは、目的も税金の扱いも違う

名前が似ているため混同されやすいのが、経営セーフティ共済(倒産防止共済)だ。両者は次のように違う。

項目小規模企業共済経営セーフティ共済(倒産防止共済)
目的経営者・役員の退職金取引先の倒産に備える資金
加入するのは社長・役員個人会社(または個人事業主)
掛金月1,000〜7万円月5,000円〜20万円(総額800万円まで)
掛金の税務個人の所得控除法人の損金(個人事業主は必要経費)
受け取るとき退職所得・公的年金等の雑所得・一時所得など解約手当金は、損金にしてきた場合は会社の益金

※2026年9月時点の中小機構の案内による一般的な取扱いです。倒産防止共済は、2024年10月以降に解約して再加入した場合、解約から2年以内の掛金は損金に算入できません。

倒産防止共済は、入口で会社の利益を減らし、出口で益金になる繰延型だ。小規模企業共済は、個人の側で控除を受け、受け取るときに退職所得などとして課税される。同じ「共済」でも、お金が戻る先が会社か個人かで、出口の設計はまったく異なる。

よくある疑問

Q. 小規模企業共済の掛金を、法人の経費にできますか?

小規模企業共済の掛金は、加入者である社長・役員個人の所得控除の対象です。会社の損金にする制度ではありません。会社の損金になる共済を探している場合は、倒産防止共済など別の制度になりますが、目的と出口の課税がまったく異なる点に注意が必要です。

Q. 法人の社長は、小規模企業共済と倒産防止共済の両方に入れますか?

それぞれの加入要件を満たせば、社長個人が小規模企業共済に、会社が倒産防止共済に加入することは制度上可能です。ただし、両方の出口(受け取る年と課税)が役員退職金の年などと重なることがあるため、受け取る順番まで含めて顧問税理士と確認しておくと安心です。

Q. 小規模企業共済は、何歳まで続けるのがよいですか?

一律の答えはありませんが、20年(240か月)未満の任意解約は掛金合計を下回ること、65歳以上での退任か65歳未満での退任かで共済金の種類が変わることが判断材料になります。退任予定の年齢と、役員退職金を受け取る年を並べて検討するのが現実的です。

「毎年いくら控除されるか」から「いつ、どの形で受け取るか」へ

小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除になるため、入口の効果が分かりやすい制度だ。

しかし、手取りを左右するのは受け取る場面だ。退任の理由と年齢、一括か分割か、役員退職金と同じ年かどうか。この組み合わせで、受け取れる金額も税金の種類も変わる。

いま加入している、あるいは加入を考えている共済金は、何歳の、どの年に、どの形で受け取る予定だろうか。その年が書けないなら、掛金額を決める前に整理しておきたいのは、そこだ。