期首から2か月ほどたつと、顧問税理士から「今期の役員報酬はいくらにしますか」と聞かれる。前期と同じでいいか、少し上げるか。多くの社長が、ここで長く迷わずに決めている。

ところが、役員報酬は一度決めると、原則として1年間変えられない。しかも、その額によって、法人税・所得税・住民税・社会保険料の4つが同時に動く。

この記事では、役員報酬の決め方を、改定の期限、4つの負担のバランス、前提を明記した仮のシミュレーション、家族役員の注意点の順に整理する。

方向を先に示すと、仮のシミュレーションでは、税と社会保険料の合計が最も小さくなる報酬額は、社長が生活に必要とする額より低く出やすい。合計が最小の額をそのまま採用すると、個人の手元資金が足りず、会社にお金が溜まっていく。

役員報酬は「一番安くなる額」を探すものではない。個人に必要な額を起点にして、会社に残す理由がある分だけ残す。そのための材料をそろえる。

この記事が役に立つ方

  • 役員報酬を毎年、前期と同じ額でなんとなく決めている
  • 報酬を上げるべきか、会社に残すべきか、比べ方が分からない
  • 配偶者や子どもを役員にしている、またはしようと考えている

役員報酬は、期首から3か月以内に決めた額を1年間払い続ける

役員報酬を会社の損金(税金の計算上の費用)にするには、原則として「定期同額給与」の形で支払う必要がある。毎月など1か月以下の一定の期間ごとに、同じ額を支払う給与のことだ。

額を変えられるのは、主に次の3つの場合に限られる。

  • 期首から3か月を経過する日までに行う改定(通常は定時株主総会での改定)
  • 役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更などによる改定(臨時改定事由)
  • 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額(業績悪化改定事由)

3月決算の会社なら、4月1日の期首から3か月を経過する日、6月末ごろまでが目安になる。定時株主総会を5月や6月に開き、そこで報酬額を決議する流れが多いのはこのためだ。確定申告書の提出期限の延長を受けている場合は、この期間が延びることがある。

業績悪化改定事由には、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかったことは含まれないとされている。期の途中で「利益が出そうだから上げる」「足りなくなりそうだから下げる」という調整は、原則としてできない。

要件に当たらない改定をすると、改定した部分が損金にならないおそれがある。そのため、役員報酬の決め方で最も大事なのは、期首3か月のうちに1年分の見通しを置くことになる。

役員報酬の決め方は、法人税・所得税・住民税・社会保険の4つを並べて比べる

報酬を1円上げると、4つの負担が同時に動く。

負担報酬を上げたときの動き押さえておく数字(2026年9月時点)
法人税等会社の利益が減り、下がる中小法人は所得800万円以下15%(特例)、超える部分23.2%。地方税を含めると超える部分は3割台後半
所得税累進課税で上がる5〜45%の7段階(別に復興特別所得税)
住民税上がる(翌年に課税)所得割はおおむね10%
社会保険料上限までは上がる。会社負担も同額増える厚生年金は標準報酬月額65万円、健康保険は139万円が上限

※2026年9月時点の一般的な取扱いです。個別の適用は要件や状況によって異なります。

ポイントは、社会保険料が会社と個人の両方にかかることだ。会社側の負担は損金になるが、会社から出ていくお金であることは変わらない。報酬の比較では、会社負担分を含めた合計で見る必要がある。

シミュレーションでは、報酬900万円前後で合計負担が最も小さくなった

仮の数字で比べる。条件は次のとおりとする。

  • 役員報酬を払う前の会社の利益を3,000万円とする。役員は社長1人で、40歳以上とする
  • 法人の税金は、中小法人の法人税・地方法人税・防衛特別法人税(2026年4月以後開始事業年度)と、標準税率の法人住民税・事業税・特別法人事業税で計算する。均等割は考えない
  • 社会保険料は東京都の協会けんぽ(健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金の合計11.70%)と厚生年金18.3%を労使で折半し、2026年9月時点の上限を適用する。等級の端数は無視する
  • 所得税は給与所得控除195万円、2026年分の基礎控除62万円、社会保険料控除だけを引き、復興特別所得税を含める。住民税は課税所得の10%とする
役員報酬(年額)900万円1,200万円1,500万円1,800万円2,400万円
法人の税金622万円505万円388万円274万円97万円
社会保険料(労使合計)248万円283万円318万円338万円338万円
所得税・住民税114万円203万円317万円444万円718万円
合計の負担984万円991万円1,023万円1,055万円1,153万円
社長の手取り662万円855万円1,024万円1,188万円1,513万円
会社に残るお金(税引後)1,354万円1,154万円953万円757万円334万円

※仮の条件による単純計算です。家族構成、各種控除、社会保険の等級、所在地などにより結果は変わります。

この表の範囲では、報酬900万円のときに合計の負担が最も小さい。1,200万円まではほとんど差がなく、そこから上は報酬を上げるほど合計が増えていく。

理由は、報酬を上げた部分にかかる個人の税率が、会社側で減る税率を上回っていくからだ。報酬1,800万円から2,400万円へ上げると、会社の税金は177万円減るが、個人の税金は274万円増える。

合計負担の最小点が、社長にとっての正解とは限らない

表だけを見ると「報酬は900万円にしておけばいい」と読める。ここで判断を止めないほうがいい。

報酬900万円の社長の手取りは約662万円。会社には毎年約1,354万円が残る。この状態を5年続けると、会社の預金は増えるが、社長個人が自由に使えるお金は手取りの662万円だけだ。住宅の購入、子どもの教育、個人での資産形成に足りなければ、どこかで会社からお金を出す必要が出てくる。

会社に残したお金を後から個人で受け取る方法には、配当や役員退職金などがある。配当は法人税を払った後の利益にもう一度個人の税金がかかる。退職金は税負担が軽くなりやすいが、受け取れる時期と金額に限りがある。どの出口を使うかは、社長の手取りを出口で整理した記事で詳しく扱っている。

判断の軸は、次の2つに置くと整理しやすい。

  • 社長個人が毎年必要とする手取り額はいくらか
  • 会社に残すお金に、使い道と出口の予定があるか

住民税は前年の所得に対して翌年に課税されるため、報酬を上げた年の翌年に負担が来る。手取りの見通しは、この時間差も含めて置いておきたい。

必要な手取りが1,000万円なら、表では報酬1,500万円前後が目安になる。900万円のときより合計の負担は約39万円増えるが、それは個人で使うお金を確保するための費用として受け止められるかどうかの問題になる。

社会保険料には上限があり、2027年9月から厚生年金の上限が段階的に上がる

シミュレーションで報酬1,800万円と2,400万円の社会保険料が同じだったのは、上限に達しているからだ。2026年9月時点で、厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円、健康保険は139万円である。

このうち厚生年金の上限は、2025年6月に成立した年金制度改正法により、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ段階的に引き上げられる。

厚生労働省の説明では、賃金などが月75万円以上の人の場合、本人負担の保険料は月9,100円上がる。会社も同じ額を負担するため、労使合計では月1万8,200円、年間で約22万円の増加になる。その分、将来受け取る厚生年金は増える仕組みだ。

月65万円を超える報酬を出している会社では、2027年以後の役員報酬を決めるとき、この増加分を見込んでおく必要がある。

家族を役員にするなら、仕事の中身から報酬額を説明できるようにする

配偶者や子どもを役員にして報酬を払うと、所得が家族に分かれ、それぞれの税率で課税される。社長1人に所得を集めるより、累進税率の段階が低くなりやすい。

ただし、役員報酬には「不相当に高額な部分は損金にならない」という制限がある。判断の材料として法令が挙げているのは、次のような事情だ。

  • その役員の職務の内容
  • 会社の収益と、使用人に対する給与の支給状況
  • 同種の事業を営む、事業規模が類似する法人の役員給与の支給状況

家族役員で問題になりやすいのは、勤務の実態が説明できない報酬だ。出社の記録、担当業務、決裁の範囲などを残しておき、報酬額との対応を説明できるようにしておきたい。また、定款や株主総会で決めた報酬の限度額を超えて支給した部分も、損金にならない。

家族役員の報酬も定期同額給与の対象で、期の途中で自由に変えられない点は社長と同じである。

役員報酬を決めるときは、この5つを期首3か月の中で確認する

  1. 今期の利益の見込み。前期の実績ではなく、今期の受注・計画から置く
  2. 社長個人が必要とする手取り額。生活費・住宅・教育・投資に分けて書き出す
  3. 会社に残すお金の目的。運転資金・投資・借入返済・退職金の原資のどれか
  4. 社会保険料の上限と、2027年9月以後の変化。月65万円を超える報酬なら影響を試算する
  5. 家族役員の職務と報酬の対応。説明できる記録があるか

1〜3が決まると、報酬額の候補はおおむね絞れる。そのうえで顧問税理士に、候補の額ごとの税額と社会保険料の試算を依頼する。株主総会の決議と議事録の作成も、この期間内に済ませておく。

よくある疑問

Q. 中小企業の役員報酬は、いくらが一番得ですか?

本記事の仮のシミュレーションでは、報酬900万円前後で税と社会保険料の合計が最も小さくなりました。ただし、そのときの社長の手取りは約662万円です。個人で必要な額に足りなければ、会社に残ったお金を後から別の出口で受け取ることになり、そこでまた税金がかかります。合計の最小値と、個人に必要な額の両方を並べて決めることをおすすめします。

Q. 役員報酬を決めた後、期の途中で変更できますか?

原則として、期首から3か月を経過する日までの改定、役員の地位や職務内容の重大な変更による改定、経営状況の著しい悪化による減額に限られます。一時的な資金繰りの都合による減額は、業績悪化改定事由に含まれないとされています。変更を考える場合は、実行前に顧問税理士に確認してください。

Q. 役員報酬のシミュレーションは、自分でもできますか?

本記事の表のように前提を置けば、おおよその比較はできます。ただし、社会保険料の等級、家族の扶養、各種控除、住民税の計算などで結果は変わります。自分で置いた前提と候補の額を持って、顧問税理士に正確な試算を依頼するのが効率的です。

「一番安い額」ではなく「必要な額」から逆算する

役員報酬の決め方は、税と社会保険料の合計を最小にする計算から始めると、答えが低めに出やすい。その額をそのまま採用すると、会社にはお金が残り、社長個人のお金は増えない。

決め方の起点は、社長個人に毎年いくら必要かだ。そこから報酬額の候補を置き、合計の負担がどれだけ増えるかを確かめる。会社に残すお金には、目的と出口の予定をつける。

来期の期首まで、あと何か月あるだろうか。3か月の期限が来る前に、個人に必要な額を書き出すところから始めたい。