家族の事情で海外に住むことになった。会社は日本にあり、社長を退くつもりはない。オンラインで経営を続け、役員報酬もこれまでどおり受け取る。

こうした形を考えるとき、よく聞かれるのが「海外に183日以上いれば非居住者になる」という話だ。しかし、国税庁は滞在日数だけで判定するものではないと明記している。

そして、非居住者になったとしても、日本の会社から受け取る役員報酬には日本の税がかかる。内国法人の役員としての報酬は、国外で勤務していても原則として20.42%で源泉徴収される。

この記事では、2026年9月時点の制度をもとに、居住者・非居住者の判定、非居住者の役員報酬の源泉徴収、租税条約、社会保険、住民税の扱いを整理する。見るべきは海外にいる日数ではなく、生活の本拠がどこにあるかと、日本の会社の役員として報酬を受けている事実だ。

この記事が役に立つ方

  • 日本の会社の役員を続けたまま、海外に住むことを検討している
  • 海外に住む役員(家族役員を含む)に、報酬を支払っている・支払う予定がある
  • 「183日ルール」で非居住者になると聞き、正しい判定の考え方を知りたい

居住者か非居住者かは、日数ではなく「生活の本拠」で判定する

所得税法では、国内に「住所」を有するか、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人を居住者という。それ以外の個人が非居住者だ。

「住所」は個人の生活の本拠をいい、生活の本拠かどうかは客観的事実によって判定する。国税庁は、複数の滞在地がある人の判定について、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実から判断するとしている。

そのうえで、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、日本の居住者となる場合があると明記している。

183日という数字は、租税条約の「短期滞在者免税」などで使われるものだ。日本の国内法で居住者か非居住者かを分ける基準ではない。家族が日本に住み、会社の経営判断も日本の仕事として続けている場合、海外に滞在する日数が多くても、生活の本拠は日本にあると判断される可能性がある。

1年以上の予定で海外で働く人は、非居住者と推定される

住所がどこにあるかを判定するために、職業などをもとにした「住所の推定」の規定がある。国税庁は、会社員が1年以上の予定で海外の支店などに転勤した場合、国内に住所を有しない者と推定され、非居住者になると説明している。

社長が海外に移る場合も、現地での仕事の予定、住居、家族の所在、日本に残す資産などの事実を総合して判定される。判定は事実の積み重ねであり、住民票の手続だけで決まるものではない。

なお、日本と相手国の両方で居住者と判定される場合は、租税条約の規定に従っていずれの国の居住者かを決める。条約の一例では、恒久的住居、利害関係の中心、常用の住居、国籍の順に判定するとされている。

非居住者の役員報酬は、国外で勤務しても20.42%で源泉徴収される

非居住者に対する給与は、原則として国内で行った勤務に対応する部分が日本の課税対象(国内源泉所得)になる。ところが、内国法人の役員報酬には特別な扱いがある。

国税庁によれば、内国法人の役員として国外で勤務した場合も、その報酬は日本国内で生じたものとして扱われ、支払の際に20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の税率で源泉徴収される。

受け取る人(非居住者)国外での勤務に対する給与国内での勤務に対する給与
内国法人の役員国内源泉所得として20.42%で源泉徴収20.42%で源泉徴収
役員でも、使用人として常時海外で勤務(海外支店長など)源泉徴収の必要はないとされる20.42%で源泉徴収
使用人(従業員)源泉徴収の必要はないとされる20.42%で源泉徴収

※2026年9月時点。国税庁タックスアンサーNo.1929・No.2517をもとに整理。租税条約により異なる扱いとなる場合があります。

例外の「使用人として常時勤務を行う場合」とは、役員が海外支店の長として常時その支店に勤務するような場合をいう。所得税基本通達は、非常勤役員として海外で情報提供や商取引の側面的援助を行っているにすぎない場合は、これに当たらないと明記している。

海外に住みながら日本の会社の社長を続ける形は、通常この例外には当たらない。役員報酬は20.42%で源泉徴収されると考えて、手取りの見込みを立てる必要がある。

家族役員が海外に住んでいる場合も同じ扱いになる。配偶者や子どもが日本の会社の役員として報酬を受けていれば、その報酬も20.42%での源泉徴収の対象だ。会社側で、役員ごとに居住者か非居住者かを把握し、住所が変わったときに知らせてもらう仕組みを作っておきたい。

出国の年は、年末調整・源泉徴収・住民税の手続が重なる

1年以上の予定で出国する人は、出国する日までに年末調整をする。保険料控除は出国の日までに支払った分が対象で、扶養控除などは出国時の状況で判定する。出国後に支払う役員報酬からは、20.42%で源泉徴収する。

源泉徴収した税は、原則として徴収した月の翌月10日までに納める。役員賞与は、支払が確定してから1年を経過しても支払われていない場合、その時点で支払があったものとみなして源泉徴収する。

住民税は、1月1日時点で日本に住所がある人に、前年の所得に対して住所地の市区町村が課税する。1月2日以降に出国した場合も同じだ。出国した年に納める住民税(前年の所得に対するもの)が出国後に残ることがあるため、出国前に納付の方法を決め、必要に応じて納税管理人を市区町村に届け出る。

役員報酬の額を出国に合わせて見直す場合は、定期同額給与の改定時期にも注意が要る。役員報酬を改定できる時期や、報酬以外の「出口」の考え方は、国内に住む場合と共通の論点になる。

租税条約は、役員報酬について会社の所在地国での課税を認めることがある

非居住者の課税は、住む国と日本との租税条約の内容によって変わりうる。国内源泉所得について条約に異なる定めがあれば、条約に従う。

役員報酬については、条約に独立した条項が置かれていることがある。たとえば日韓租税条約第16条は、法人の役員の資格で取得する役員報酬は、その法人の所在地国で課税できるとしている。この形の条項であれば、日本の会社から受ける役員報酬は日本で課税されうる。

住む国でも同じ報酬に課税される場合は、二重課税の調整が現地の制度でどう行われるかを確認する必要がある。条約の内容は国ごとに異なるため、住む予定の国と日本との条約を、条文単位で確認することになる。

条約で源泉徴収の軽減や免除を受ける場合は、支払を受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書」を、支払者を通じて税務署に提出する手続が必要になる。

社会保険は、住所ではなく勤務と報酬の実態で加入が続く

日本年金機構は、健康保険と厚生年金保険について、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入するとしている。日本の会社の役員として報酬を受け続けるなら、海外に住んでも被保険者資格が続くことがある。

一方で、次の点は扱いが変わる。

  • 介護保険は国内に住所がある人が対象のため、海外に転出する場合は「介護保険適用除外等該当・非該当届」を出す
  • 健康保険の被扶養者には2020年4月から原則として国内居住の要件があり、海外に住む家族は、留学や海外赴任への同行などの「海外特例要件」に当たらないと被扶養者になれない
  • 住む国と社会保障協定がある場合、派遣期間の見込みなどによって、どちらの国の制度に加入するかが調整される

社会保障協定は、保険料の二重負担を防ぎ、年金の加入期間を通算するための仕組みだ。協定の有無と内容は国ごとに異なるため、住む国ごとの確認が欠かせない。

日本の会社の役員を続けて海外に住むなら、経営の実態を説明できるようにする

海外に住みながら日本の会社の役員を続ける場合、税・社会保険のほかにも確認点がある。

  1. 住む国の税制:日本の役員報酬が現地でどう課税されるか。日本の公式資料では確認できないため、現地の専門家に確認する
  2. 会社の意思決定の場所:法人の居住地は日本では本店所在地で判定するが、条約では事業の実質的な管理の場所なども考慮される。取締役会や契約の締結をどこで行うか
  3. 保有資産:自社株を含む有価証券等が1億円以上なら、出国時に国外転出時課税の対象になりうる
  4. 日本側の手続の担い手:住民税や確定申告の納税管理人、会社の源泉徴収や社会保険の手続を誰が行うか

とくに2つ目は、社長が海外から会社を動かす形そのものが、会社側の論点を生むことを意味する。社長個人の居住地だけでなく、会社として説明できる体制を整えておく必要がある。

海外に住まないほうがよいケースと、国内の選択肢

ここまでの内容をまとめると、日本の会社の役員として報酬を受け続ける限り、海外に住んでも役員報酬への日本の課税は続く。そのうえで、源泉徴収、条約、社会保険、住民税、現地の税制の手続が増える。

次のような場合は、海外に住むことを急がないほうが判断しやすい。

  • 海外に住む理由が、税金の話から始まっている
  • 家族の生活や会社の経営判断が、実質的に日本に残る
  • 現地の税制や社会保険を確認し、毎年の手続を担う体制がない

社長個人の手取りや資産の課題であれば、役員報酬の水準、退職金の準備、社宅や旅費の規程など、国内で完結する選択肢から検討できる。海外に住むかどうかは、家族や事業の理由から決め、その後で税と手続を確認する順序が自然だ。

よくある疑問

Q. 海外に183日以上いれば、非居住者になりますか?

日本の居住者・非居住者の判定は、滞在日数ではなく生活の本拠がどこにあるかで行います。国税庁は、外国に1年の半分(183日)以上滞在していても日本の居住者となる場合があると明記しています。住居、職業、家族の居住状況、資産の所在などの事実から総合的に判定されます。

Q. 非居住者の役員報酬の源泉徴収税率は何%ですか?

内国法人の役員として受ける報酬は、国外で勤務した分も含めて、原則として20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)で源泉徴収されます。役員が海外支店長として常時勤務するなど、使用人として常時海外で勤務する場合は例外があります。租税条約により扱いが異なる場合もあります。

Q. 非居住者になった役員の社会保険はどうなりますか?

健康保険・厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内の住所の有無を問わず加入するとされています。介護保険は適用除外の届出が必要になり、家族の被扶養者認定には国内居住要件があります。住む国との社会保障協定の有無も確認が必要です。

見るべきは滞在日数ではなく、生活の本拠と報酬の出どころ

「183日」という数字は覚えやすいが、日本の居住者判定の基準ではない。判定を決めるのは、家族、住居、仕事、資産がどこにあるかという事実だ。

そして、日本の会社の役員として受ける報酬は、どこに住んでいても日本の課税の対象になる。海外に住む選択は、手続と確認事項を増やす選択でもある。

海外に住んだ後、会社の経営判断は、誰が、どこで行うことになるだろうか。その答えを書き出すことが、判定と手続を整理する最初の材料になる。