出国の日が決まり、住まいの解約、引っ越し、家族の手続きが続く。確定申告は「来年の3月にやればいい」と後回しにされやすい。

ところが、海外移住する年の所得税は、いつも通りにはいかないことがある。確定申告が必要な人が、納税管理人を届け出ずに出国すると、その年の所得の申告は「出国の時まで」に済ませる必要がある。

反対に、出国の日までに納税管理人を税務署に届け出れば、申告は翌年2月16日から3月15日までの期間に、納税管理人を通じて行える。

そして非居住者になった後も、日本の不動産の賃貸収入や売却益など、日本で申告が続く所得がある。

この記事では、国税庁の資料をもとに、2026年9月時点の制度で、出国する年の申告の流れ、納税管理人の役割、非居住者になった後の申告、出国前に揃える書類を整理する。見るべきは翌年3月の申告期限ではなく、出国日までに納税管理人を届け出るかどうかだ。

この記事が役に立つ方

  • 海外移住の日程が決まり、その年の確定申告をいつ・どうするか知りたい
  • 納税管理人を置くべきか、誰に頼むべきか迷っている
  • 日本に不動産や自社株を持ったまま、海外に住むことを考えている

海外移住する年は「居住者の期間」と「非居住者の期間」に分かれる

所得税では、国内に住所がある人などを居住者、それ以外の人を非居住者という。居住者は原則として国内外の所得が課税対象になり(非永住者には国外所得について特別な範囲がある)、非居住者は日本国内で生じた所得(国内源泉所得)だけが課税対象になる。

国税庁は、日本国内の会社に勤める人が1年以上の予定で海外に転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され、非居住者になると説明している。社長が海外に移る場合も、住居、家族、仕事、資産の所在といった事実から判断される。

そのため、年の途中で出国する人のその年は、次の2つの期間に分かれる。

  • 居住者期間:1月1日から出国の日まで。この間のすべての所得が対象
  • 非居住者期間:出国の翌日から12月31日まで。この間は国内源泉所得だけが対象

申告で問題になるのは、この2つの期間の所得を、いつ、誰が申告するかだ。その答えを分けるのが納税管理人の届出になる。

納税管理人を定めずに出国すると、出国の時までに申告が必要になる

所得税法でいう「出国」は、単に日本を出ることではない。国税庁は、納税管理人の届出をしないで国内に住所および居所を有しないこととなることを「出国」と説明している。

この意味での出国をする場合、居住者期間に生じたすべての所得について、出国の時までに確定申告(準確定申告)をする必要がある。国税庁は、給与収入が2,000万円を超える人や、給与以外に一定の所得がある人など確定申告が必要な人が出国するときは、出国の時までに申告しなければならないとしている。

さらに、出国後の非居住者期間に、申告が必要な国内源泉所得が生じることもある。その場合は、準確定申告をしていても、居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得を合計して、翌年2月16日から3月15日までに、納税管理人を通じて改めて確定申告をする必要がある。

引っ越しの準備と並行して、年の途中までの所得を集計し、申告と納税を済ませる。これが「納税管理人を置かない」選択の実際の負担だ。

納税管理人を届け出れば、翌年2月16日〜3月15日に申告できる

一方、出国の時までに納税管理人を定めて届け出た場合、国税庁は次のように説明している。

1月1日から出国する日までに生じたすべての所得と、出国した日の翌日から12月31日までに生じた国内源泉所得の合計額について、翌年2月16日から3月15日までの間に、納税管理人を通じて確定申告と納税をする。

2つの選択を並べると、次のようになる。

項目納税管理人を届け出ずに出国出国までに納税管理人を届け出る
居住者期間の所得の申告期限出国の時まで(準確定申告)翌年2月16日〜3月15日
非居住者期間に申告が必要な国内源泉所得がある場合翌年2月16日〜3月15日に、納税管理人を通じて合計額で改めて申告居住者期間の所得とあわせて1回で申告
配偶者控除・扶養控除などの判定日出国の日その年の12月31日
税務署からの書類―納税管理人あてに送付
国外転出時課税の対象者出国の時までに、その所得を含めて準確定申告・納税。納税猶予の要件の一つ(出国までの納税管理人の届出)を満たさない確定申告期限までに申告。要件を満たせば納税猶予を受けられる

※国税庁タックスアンサーNo.1926・No.1478をもとに整理(2026年9月時点)。個別の状況により扱いが異なる場合があります。

医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除は、どちらの場合も居住者期間に支払った金額をもとに計算する。雑損控除、寄附金控除、基礎控除は、どちらの場合も適用できる(非居住者期間の雑損控除は国内の資産の損失に限られる)。

表の最後の行は、自社株などの有価証券等を1億円以上持つ社長に特に関係する。国外転出時課税の納税猶予を受けるには、国外転出の時までに納税管理人を届け出ていることが要件の一つになっている。制度の詳細は出国税(国外転出時課税)とは?で整理している。

納税管理人は、申告・書類の受け取り・納付を代わりに行う人だ

国税庁は、納税管理人を「確定申告書の提出や税金の納付などを非居住者に代わってする人」と説明している。届出書の書き方では、納税管理人が行うことを次のように示している(不服申立てに関する事項を除く)。

  • 申告、申請、請求、届出その他の書類の作成と提出
  • 税務署長等が発する書類の受け取り
  • 国税の納付と、還付金等の受け取り

納税管理人は、個人でも法人でもよい。

納税管理人の届出書は、出国の日までに税務署へ出す。書き方と出し方

届け出る書類は「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」だ。国税庁の手続案内と書き方をもとに、要点を並べる。

項目内容
提出時期納税管理人を定めたとき、または出国の日まで。解任するときは、解任したとき
提出先納税者の納税地を所轄する税務署長
提出方法e-Tax。書面を作成して持参・送付することもできる
本人確認書類e-Taxなら提示・添付は不要。書面でマイナンバーを記載して出す場合は、提示または写しの添付が必要
税務署の窓口2026年10月1日から、総合窓口の受付時間は原則9時〜15時

※国税庁「所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続」と届出書の書き方による(2026年10月時点)。

書き方で間違えやすいのは、次の3点だ。

  • 標題と本文の不要な文言を消す。所得税だけなら「・消費税」を、選任なら「・解任」を消す
  • 「3」の欄には、選任の場合、国内に住所も居所もなくなった後の、国外の住所または居所を書く
  • 納税管理人が法人なら、本店の所在地、法人名と代表者名、事業内容を書く

納税管理人を変えるときは、今の納税管理人の解任届出書を出したうえで、新しい納税管理人の選任届出書を出す。届出書の控えには、マイナンバーを写さないよう注意したい。

届出書を出した後、税務署が発送する書類は納税管理人あてに送られる。ただし、確定申告書は非居住者本人の納税地を所轄する税務署長に提出する。帰国して納税管理人を置く必要がなくなったときや、別の人に変えるときは、解任・選任の届出を行う。

確定申告が必要なのに届け出ない場合については、2022年1月から「特定納税管理人」の制度が施行されている。税務署長等は、期限を示して届出を求め、それでも届出がなければ、国内に住む成年の生計同一の親族など一定の人を、納税管理人に指定できる。届け出ないままにしておける仕組みではない。

頼む相手は、日本に住む家族、顧問税理士、会社などが考えられる。書類の受け取りだけでなく、申告内容の確認や納付の資金をどうするかまで、依頼する範囲を具体的に決めておきたい。

なお、ここで扱っているのは所得税(国税)の納税管理人だ。住民税の納税管理人は、別に市区町村へ届け出る。

社長の役員報酬は、出国前は年末調整、出国後は20.42%の源泉徴収

自分の会社から役員報酬を受け取っている社長は、会社側の手続きも同時に進むことになる。

国税庁によると、1年以上の予定で海外に出る役員や使用人については、給与の支払者が、出国する日までに年末調整をする。その年の給与の支給額が2,000万円以下であることなどが条件だ。保険料控除は出国の日までに支払ったものに限られ、扶養控除などは出国の時の現況で判定する。

出国後に支払う役員報酬は扱いが変わる。内国法人の役員として受ける報酬は、海外での勤務に対するものでも国内源泉所得に当たり、20.42%の税率で源泉徴収が必要とされている。海外支店長など使用人として常時海外で勤務する場合は例外がある。

国税庁の「源泉徴収のあらまし(令和8年版)」では、恒久的施設を有しない非居住者が受ける給与・報酬や、内国法人から受ける配当などは、源泉分離課税(源泉徴収で課税関係が終わる方式)に区分されている。役員報酬の源泉徴収と租税条約の関係は非居住者の役員報酬と源泉徴収で詳しく扱っている。

会社側で押さえたいのは、社長本人の出国日を境に、源泉徴収の方法を切り替える必要があることだ。出国日と、出国前最後の報酬の支払日を、事前に経理担当や顧問税理士と共有しておきたい。

非居住者になった後も、日本で確定申告が必要な所得がある

非居住者になれば日本での申告が終わる、とは限らない。国税庁は、次の国内源泉所得は総合課税の方法で税額を計算し、確定申告をする必要があるとしている。

  1. 国内にある資産の運用または保有により生じる所得(源泉徴収されないもの)
  2. 国内にある資産(不動産や一定の株式等など)の譲渡により生じる所得
  3. 国内にある不動産等の貸付けによる対価(不動産所得)
  4. 国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく一時金

オーナー経営者に関係しやすいのは、次の3つだ。

  • 日本の不動産の賃貸収入:借り手が非居住者に賃料を払う際、原則として20.42%で源泉徴収される(個人が自己や親族の居住用に借りる場合を除く)。源泉徴収税額の還付を受けるための申告もできる
  • 日本の不動産の売却:譲渡所得として原則として確定申告が必要。譲渡対価は原則として10.21%で源泉徴収される
  • 自社株などの譲渡:非居住者の株式譲渡は一部だけが課税対象だが、事業譲渡類似の株式譲渡(譲渡年以前3年以内に特殊関係株主等で25%以上を所有し、その年に5%以上を譲渡した場合)などは申告対象になる

年を通じて海外にいる年も同じだ。国税庁は、国内源泉所得があり、その所得金額が所得控除の合計額を超える場合は、原則として翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告をする必要があるとしている。納税管理人は、出国の年だけでなく、日本に申告が必要な所得がある限り続く役割になる。

なお、租税条約によって日本で課税されない場合や、税率が軽減される場合もある。住む国との条約の内容は、条文単位で確認が要る。

出国前に整理しておく書類と情報

出国後に書類を集めるのは、思った以上に手間がかかる。出国前に、次のものを手元か納税管理人のもとに揃えておくと、申告が進めやすい。

  1. 居住者期間の所得の資料:会社の源泉徴収票(出国時の年末調整分)、配当の支払通知、証券口座の取引報告書、不動産の収支の記録
  2. 控除の証明書類:出国の日までに支払った社会保険料・生命保険料・医療費の領収書や証明書、寄附金の受領証明書
  3. 出国後も続く日本の所得の一覧:賃貸不動産、売却予定の資産、日本の会社からの報酬・配当、その支払者と源泉徴収の有無
  4. 納税管理人の届出書の控え:所得税(税務署)と住民税(市区町村)の両方
  5. 納付の資金と方法:納税管理人が使える日本の口座、e-Taxの利用者識別番号、マイナンバーの確認書類
  6. 国外転出時課税の判定資料:自社株を含む有価証券等の一覧と評価の根拠(対象になりうる人のみ)

このリストは、そのまま顧問税理士や納税管理人との打ち合わせの材料になる。どれを誰が持つかを決めるところまでが、出国前の準備だ。

出国前の申告で注意が必要なケース・この進め方が向かない人

次のような場合は、一般的な流れのとおりに進めるのではなく、早めに税理士と個別に確認したい。

  • 自社株を含む有価証券等が1億円前後ある:国外転出時課税の対象かどうかで、出国前の準備が大きく変わる
  • 出国の年に役員退職金を受け取る、または自社株や不動産を売る:居住者期間か非居住者期間かで課税の扱いが変わりうる
  • 日本に住む家族など、納税管理人を頼める人がいない:税理士や会社に依頼する場合の範囲と費用を事前に決めておく必要がある
  • 出国の予定が1年未満、または帰国の時期が決まっていない:非居住者と推定されるかどうか自体が不確かになる
  • 住む国でも所得税の申告が必要になる:日本の申告だけでは完結せず、現地の専門家との役割分担が要る

海外移住は、日本の申告を終わらせる手続きではない。申告の形と担い手が変わる手続きだと考えると、準備の範囲が見えやすくなる。社長個人のお金の流れ全体は社長の手取りを増やす方法で整理した「出口」の考え方で見直せる。

よくある疑問

Q. 海外移住する年の確定申告は、出国前にしないといけませんか?

確定申告が必要な人が納税管理人を届け出ずに出国する場合は、出国の時までに居住者期間の所得を申告(準確定申告)する必要があります。出国の時までに納税管理人を届け出れば、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて申告できます。会社の年末調整だけで完結する人は、申告自体が不要な場合もあります。

Q. 納税管理人の届出書は、どこにいつまでに出しますか?

納税地を所轄する税務署長に、納税管理人を定めたとき、または出国の日までに提出します。e-Taxのほか、書面の持参・送付もできます。住民税の納税管理人は、別に市区町村へ届け出ます。

Q. 納税管理人は家族でもなれますか?

納税管理人は個人でも法人でも構わないとされており、日本に住む家族に頼むこともできます。書類の受け取り、申告書の提出、納付を代わりに行う役割のため、申告内容を誰が作るか(税理士に依頼するか)とあわせて決めておくと安心です。

Q. 非居住者になった後、日本の会社からの役員報酬は申告が必要ですか?

内国法人の役員報酬は、国外で勤務していても原則として20.42%で源泉徴収されます。国税庁の資料では、恒久的施設を有しない非居住者の給与・報酬は源泉分離課税に区分されています。ただし、ほかに不動産所得など申告が必要な所得がある場合や、租税条約が関係する場合は、税理士に個別に確認してください。

申告期限を決めるのは、出国日までの届出だ

海外移住する年の確定申告は、翌年3月の話に見えて、実際には出国前に形が決まる。

納税管理人を届け出るかどうかで、申告の期限、控除の判定日、国外転出時課税の納税猶予の可否まで変わる。そして非居住者になった後も、日本に不動産や自社株がある限り、申告の役割は続く。

出国した翌年の3月、日本の税務署とのやりとりは誰が担うことになっているだろうか。その名前が書けるかどうかが、出国前の準備の目安になる。