「ドバイは税金がかからないんですよね」。海外移住の話になると、よくこう聞かれる。

私は30歳を少し過ぎた頃、UAEに生活拠点を移した。主に暮らしているのはドバイ周辺だ。移住を選んだと話すと、「税金を安くするためですか」と聞かれることも多い。

たしかに、UAEには個人の所得税がない。ただ、それは「UAEの税金」の話だ。ドバイに住んでも、日本の会社、日本にある資産、家族との関係から生まれる日本の税金は残る。

私自身、移住前に確認しておいてよかったと一番感じているのは、この点だった。この記事では、UAE側の税金の基本と、ドバイに住んでも日本に残る税金を整理し、私が移住前後に確認したこと、そして移住を勧めない人の条件をまとめる。

この記事が役に立つ方

  • ドバイ(UAE)への移住を、税金も含めて検討し始めたオーナー経営者
  • 日本の会社を経営し続けながら、海外に住むことを考えている
  • 「ドバイなら税金がかからない」という話を、どこまで信じてよいか確かめたい

ドバイ(UAE)の税金は、個人の所得税なし・法人税9%

まず、UAE側の税金を確認する。

UAEには、個人の給与や投資収益にかかる所得税がない。一方、法人には2023年から連邦の法人税が導入された。2023年6月1日以後に始まる事業年度から適用され、課税所得のうち37万5,000ディルハムまでは0%、それを超える部分に9%がかかる。

フリーゾーン(経済特区)の法人は、要件を満たす「適格所得」に限って0%が適用される。フリーゾーンに法人を置けば何でも0%になる、という仕組みではない。

項目UAEの扱い(2026年9月時点)
個人の所得税なし
法人税課税所得37万5,000ディルハムまで0%、超える部分は9%(2023年6月1日以後に始まる事業年度から)
フリーゾーン法人要件を満たす適格所得のみ0%。それ以外の所得は9%

※UAEの制度は変わることがあります。実際の適用は、現地の専門家に確認してください。

ここまでが、よく語られる「ドバイの税金」の部分だ。問題は、この話がUAE側だけの話だという点にある。

ドバイに住んでも、日本に残る税金がある

生活拠点をUAEに移し、日本の税法上「非居住者」になっても、日本とのつながりがある限り、日本の税金はなくならない。オーナー経営者に関係しやすいものを並べる。

日本に残る税金・負担主な内容
住民税その年の1月1日に日本に住所があれば、前年の所得に対してかかる。出国した年の分は、出国後も払う
日本の会社から受け取る役員報酬海外に住んでいても、日本法人の役員報酬は原則として日本で課税され、20.42%で源泉徴収される
国外転出時課税(出国税)有価証券等が1億円以上などの要件に当たると、出国時に含み益に所得税がかかる
相続税・贈与税親と子の住所や、過去10年以内に日本に住所があったかどうかで、海外にある財産まで課税されることがある
日本の不動産貸せば家賃、売れば売却益が日本で課税される。借主・買主による源泉徴収の対象になることもある
社会保険日本の会社から経営の対価として報酬を受け続けると、健康保険・厚生年金の資格が続くことがある

※それぞれ要件や例外があります。詳しくは各項目の解説記事と、顧問税理士・社会保険労務士へ確認してください。

特にオーナー経営者にとって大きいのは、日本の会社を持ち続ける限り、日本との税金の関係は続くという点だ。報酬、株式、会社の資産、承継。移住しても、これらは日本の制度の上にある。

それぞれの詳しい仕組みは、海外移住と住民税、非居住者の役員報酬、出国税(国外転出時課税)、海外移住と相続税の10年ルールで解説している。

ドバイの不動産を売ったとき、日本で税金はかかるか

答えは、売った人が日本の税法上の居住者か、非居住者かで変わる。

国税庁は、日本の居住者が海外の不動産を売った譲渡益にも、国内の不動産を売った場合と同様に課税されると説明している。日本に住んだままドバイの物件を買い、売却益が出れば、日本で確定申告の対象になる。

  • 売却代金と取得価額は、原則として取引日の為替相場の仲値(TTM)で円に換算する
  • 売った外貨をすぐ円に替えた場合は、買相場(TTB)で計算することもできる
  • 外国で所得税に当たる税がかかった場合は、外国税額控除で二重課税を調整する仕組みがある

UAEで日本の所得税に相当する税が課されなければ、通常、その税について外国税額控除による調整は生じない。円安で円換算の売却益が大きくなることもある点にも注意したい。

一方、生活の本拠をUAEに移して日本の非居住者になっていれば、日本で課税されるのは原則として日本国内で生じた所得に限られる。ただし、非居住者かどうかは滞在日数ではなく、住まい、仕事、家族、資産の状況などから総合的に判断される。売る時点で日本の居住者と判定されれば、海外の物件の売却益も日本で課税される。

ドバイから日本へ送金すると、課税されるか

お金を送ること自体に、税金がかかるわけではない。課税されるかどうかは、そのお金がどういう理由で生まれ、誰に渡るかで決まる。

  • 自分の預金を自分の日本の口座に移すだけなら、送金そのものは所得にならない
  • ただし、そのお金の元になった給与や売却益などは、居住者・非居住者の区分に応じて課税の対象になる
  • 日本に住む家族にお金を渡せば、原則として贈与になり得る。扶養義務者の間で、生活費や教育費として通常必要なお金を必要な都度渡し、直接その用途に使う場合などは贈与税がかからない。贈与税の範囲は、親子の住所や過去10年の住所でも変わる(海外移住と相続税・贈与税の10年ルール)

なお、国外への送金と国外からの送金のうち100万円を超えるものは、送金を扱った金融機関が「国外送金等調書」を税務署に提出する。送金者・受取人の氏名や住所、金額が記載される。大きな送金ほど、なぜそのお金を送ったのかを説明できる記録を残しておきたい。

私がUAEを選んだとき、税金は判断材料のひとつだった

ここからは、私自身の話をする。

海外移住を本格的に考え始めたのは30歳頃、年でいえば2019年から2020年頃だった。きっかけは、会社の売上や利益が増えても、それがそのまま個人や家族の資産として残るわけではないと感じたことだ。

税負担は、たしかに検討要素のひとつだった。ただ、税率だけを比べて移住を決めたわけではない。住む場所を変えることは、生活全体を変えることだからだ。

生活拠点を考えるとき、私はおおむね次の項目を確認した。

  1. 家族を含めて安全に生活できるか
  2. 住居や日常生活を現実的に整えられるか
  3. 事業を行う環境があるか
  4. 日本との移動を続けられるか
  5. 海外から人や企業が集まる場所か
  6. 教育や家族の生活に対応できるか
  7. 銀行、契約、行政手続きなどを進められるか
  8. 税務や法人制度を専門家へ確認できる環境があるか
  9. 長期的に資産や事業を分散する選択肢になるか

譲れなかったのは、生活の安全、日本との行き来、事業を続けられることの3つだった。逆に、日本と同じ便利さや、すべての手続きが日本語で進むことは諦める必要があった。

税金だけで選ぶと、実際の生活や事業が続かないことがある。生活できること、仕事を続けられること、家族に無理がないこと。それが前提で、その上に税務や資産の検討がある。私はそう考えて判断した。

移住前に確認しておいてよかったこと、足りなかったこと

実際に動く前に、確認先を分けた。日本の税務は税理士へ、契約や法的な論点は弁護士へ、現地の制度や手続きは海外の実務家へ。自分でも、生活環境、住居、日本との移動、事業環境、銀行、法人制度、税務を調べた。

確認しておいてよかったのは、海外へ移っただけでは、日本の会社、資産、税務との関係はなくならないという点だ。ここを知らないまま動いていたら、後で慌てていたと思う。

一方、足りなかったのは運用面の確認だった。制度上できるかどうかは調べていた。しかし、実際に誰へ連絡し、どの書類を用意し、どれほどの管理が必要になるのかまでは、想像できていなかった。制度を知っていることと、実務を回せることは違う。

移ってわかった、税金以外に増えるもの

移住後、最初に困ったのは、問題が起きたときにどこへ問い合わせればよいか分からないことだった。日本では一つの窓口で進むことも、海外では行政、銀行、住居、契約と、それぞれ別の相手に確認する必要がある。担当者によって必要な書類の説明が違うこともあった。

私は英語が得意ではない。行政手続き、契約、銀行の説明を理解しながら進めることには不安があった。分からないまま同意せず、資料を確認し、必要に応じて通訳や現地の実務家を通して進めるようにした。

想定より影響が大きかったのは、移動そのものよりも、日本と海外の両方で生活と仕事を維持する管理の複雑さだった。住居、銀行、契約、行政手続き、移動、時差。日本だけで生活していた頃より、関係する国、制度、通貨、専門家が増えた。日本とUAEのどちらで何を申告するのか、日本法人と海外法人の役割をどう分けるのか、国内外の専門家に同じ前提を共有できているのか。こうした管理が日常の仕事になる。

費用も増える。日本より住居費や教育費が高くなることがあり、法人を持てば維持費がかかる。契約を理解するための専門家費用も必要だ。税率が下がっても、生活と管理にかかる費用が増えることは、比較に入れておきたい。

日本とUAEの租税条約と、情報の交換

日本とUAEの間には、二重課税の回避と脱税の防止を目的とした租税条約がある。2013年5月2日にドバイで署名され、2014年12月24日に発効した。

租税条約は、同じ所得に両国で課税されることを調整する一方、税務当局の間で情報を交換する仕組みも含んでいる。海外の金融口座の情報も、CRS(共通報告基準)によって日本の国税庁に届く仕組みがある。

海外に住むことや、海外に口座や法人を持つことは、日本の税務当局から見えない場所に移ることではない。正しく申告する前提で設計する必要がある。仕組みはCRSの解説記事で説明している。

ドバイ移住が向かない人

私は、海外移住を勧めたいわけではない。日本に残るほうがよい人も多い。自分の経験から、次のような場合は移住を勧めない。

  • 税金だけを理由にしている:日本に残る税金を確認すると、想定していたほど変わらないこともある
  • 日本の事業を任せる体制がない:役割、権限、報告の方法が決まっていなければ、遠隔での経営はむしろ難しくなる
  • 家族の生活が成り立たない:住居、安全、教育、医療、日本との行き来は、経営の合理性だけでは決められない
  • 海外で増える管理を受け入れられない:言語、移動、時差、手続き、管理費用を含めて判断する

また、税負担や資産管理の問題の中には、法人設計や資産の持ち方を国内で見直すことで改善できるものもある。海外へ出る必要がないなら、出ないほうが負担は少ない。まずは国内でできることから比べてほしい。

なお、日本の税法上の居住者・非居住者の判定は、本人の希望で決まるものではない。住所があるかどうかは、生活の本拠がどこにあるかを、家族、住居、仕事、資産などの客観的な事実から総合的に判断される。

ドバイ移住を検討するなら、この順番で確認する

いま同じことをするなら、私は次の順番で確認する。

  1. 海外へ出る目的を明確にする。税金、事業、家族、生活、資産のうち、何を変えたいのか
  2. 日本に残る場合の選択肢と比べる。出なくても解決できることがある
  3. 家族、事業、資産への影響を整理する
  4. 日本側の税務・法務の論点を確認する。住民税、役員報酬、出国税、相続税、社会保険
  5. 現地の生活環境と実務を確認する
  6. 住居、銀行、契約、行政手続きの流れを確認する
  7. 日本の事業を続ける体制を整える
  8. 状況が変わった場合の出口も考える。日本へ戻る可能性も含めて

最後に出口を考えるのは、入るときには誰も出ることを想定しないからだ。私自身、出ていくときには、将来日本へ戻る場合の整理を考えていなかった。戻る可能性がある以上、いつか向き合う論点になる。

よくある疑問

Q. ドバイに住めば、日本の税金はゼロになりますか?

なりません。日本の会社から受け取る役員報酬、日本の不動産の収入や売却益、住民税(出国した年の分)などは日本で課税されます。相続税・贈与税も、家族の住所や過去10年の日本の住所によっては、海外の財産まで対象になります。出国時には国外転出時課税の対象になることもあります。

Q. 日本に住んだまま、ドバイの不動産を売ったら税金はかかりますか?

日本の居住者は、海外で生じた所得も原則として日本で課税されます。ドバイの不動産の売却益も、国内の不動産と同様に日本で申告の対象になります。円換算は原則として取引日の仲値(TTM)で行います。

Q. ドバイから自分の日本の口座へ送金すると、税金はかかりますか?

送金そのものに税金はかかりません。課税されるかどうかは、そのお金の元になった所得や、家族への贈与かどうかで判断されます。100万円を超える国外からの送金は、金融機関から税務署へ国外送金等調書が提出されます。

Q. 日本の会社の役員を続けながら、ドバイに住めますか?

住むこと自体はできますが、日本法人から受け取る役員報酬は原則として日本で課税され、源泉徴収の対象になります。社会保険の資格が続く場合もあります。また、海外にいる役員が経営の中心になる場合、会社側の税務上の論点が生じることもあるため、顧問税理士への確認が必要です。

Q. ドバイのフリーゾーンに法人を作れば、法人税は0%ですか?

0%になるのは、要件を満たす「適格所得」に限られます。それ以外の所得には9%がかかります。さらに、日本の居住者や日本法人がUAEの法人を持つ場合、日本の外国子会社合算税制の対象になることがあります。詳しくは外国子会社合算税制の解説を参照してください。

ドバイ移住は、税金の手続きではなく人生の選択

ドバイには個人の所得税がない。それは事実だ。けれど、日本の会社、資産、家族とのつながりがある限り、日本の税金は残る。そして移住すれば、税金以外の管理と費用が増える。

私は、海外は唯一の答えではなく、経営者が知っておくべき比較対象のひとつだと考えている。海外を見たうえで日本を選ぶことと、海外を知らないまま日本だけを選ぶことは違う。

あなたが海外移住で変えたいのは、税金だろうか。それとも、事業、家族、資産のどれかだろうか。その答えが、比べるべき選択肢を決める。