春に日本を出て、海外で暮らし始める。引っ越しも手続きも終わったころ、日本の市区町村から住民税の納税通知書が届く。
「もう日本に住んでいないのに、なぜ払うのか」。海外移住を考える人が、最初につまずきやすいのがここだ。
理由は住民税の仕組みにある。住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村が、前年の所得に対して課税する。1月2日以降に出国しても、その年度の住民税はなくならない。
反対に、翌年の1月1日に国内に住所がなければ、その年度の住民税は課されないのが原則だ。ただし、住民票を残したままだったり、生活の本拠が日本にあると判断されたりすれば、扱いは変わる。
この記事では、2026年9月時点の制度をもとに、海外移住した年と翌年の住民税、住民票との関係、出国後の払い方を整理する。見るべきは出国した日ではなく、1月1日にどこに住所があるかと、出国後に誰がどう払うかだ。
この記事が役に立つ方
- 海外移住を予定していて、住民税をいつまで払うのか知りたい
- 出国後に届く納税通知書を、誰がどう受け取り、払うのか決めていない
- 日本の会社から役員報酬を受け続けたまま、海外に住むことを考えている
住民税は「1月1日の住所」と「前年の所得」で決まる
個人の住民税は、都道府県民税と市町村民税をあわせたものだ。地方税法は、個人の住民税の賦課期日(課税の基準日)をその年度の初日が属する年の1月1日と定めている。
総務省は、個人住民税を「その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある方」に課税すると説明している。計算のもとになるのは、前年1月1日から12月31日までの所得だ。
- 所得割:前年の所得に応じてかかる部分。標準の税率は10%(道府県民税4%・市町村民税6%。政令指定都市は2%・8%)
- 均等割:所得にかかわらず定額でかかる部分。標準は年4,000円。2024年度からは、あわせて森林環境税(国税)1,000円が徴収される
税率や均等割の額は、市区町村が条例で定める。実際の税額は、住所地の通知で確認することになる。
ここで押さえたいのは、住民税は「後払い」の税金だということだ。2026年度の住民税は、2025年の所得に対して、2026年1月1日の住所地で課される。納付は2026年6月ごろから始まる。出国する年は、ちょうどこの後払い分が残った状態で日本を出ることになる。
出国した年の住民税は、出国後も払い続ける
「海外移住したら住民税はいつまで払うのか」。答えの一つめは、出国した年の年度分は、出国後も最後まで払うだ。
総務省は、1月1日時点で日本に住所があれば、1月2日以降に日本から出国した場合も同じだと明記している。東京都中央区も、年の途中で国外転出しても税額は変わらないと案内している。
納付の時期は、徴収の方法によって違う。
- 普通徴収(自分で納付):地方税法上の納期は原則として6月・8月・10月・翌年1月の4回で、具体的な納期は市区町村の条例で定める
- 特別徴収(給与から天引き):会社が6月から翌年5月までの給与から毎月差し引いて納める
たとえば3月に出国した場合、その年度の住民税の納税通知書は6月ごろに届く。このとき本人はすでに海外にいる。通知書を誰が受け取り、どの口座から払うかを出国前に決めていないと、日本側では「通知が届かない納税者」として扱われる。
中央区や板橋区は、納税管理人の届出がないまま国外転出した場合、通知書を送れないため「公示送達」を行うことがあると案内している。公示送達の後、納期限までに納付がなければ督促状が出され、延滞金が加算されることがある。
翌年の1月1日に国内に住所がなければ、翌年度の住民税は原則かからない
答えの二つめは、翌年度についてだ。出国した翌年の1月1日に国内に住所がなければ、その年度の住民税は原則として課されない。
仮に、2026年3月に出国し、その後も海外で暮らし続ける場合を考える。前提は次のとおりとする。
- 出国前に海外転出届を出し、住民票を除いている
- 2026年も2027年も、生活の本拠は海外にあると判断される
- 日本に自宅(家屋敷)は残さない
| 年度 | 計算のもとになる所得 | 1月1日の住所 | 住民税の扱い |
|---|---|---|---|
| 2026年度 | 2025年1〜12月の所得 | 2026年1月1日:日本 | 課される。出国後も納付が続く |
| 2027年度 | 2026年1〜12月の所得 | 2027年1月1日:国外 | 原則として課されない |
※仮の条件による整理です。住所の判断は市区町村が事実にもとづいて行い、上記と異なる扱いになることがあります。
埼玉県所沢市は、1月1日の時点で出国しており、かつ継続して1年以上海外で勤務する場合は市民税の納税義務はない、と案内している。同時に、短期で帰国する場合や、単なる旅行で出国している場合は納める必要があるとも明記している。
品川区も、賦課期日をまたいで1年以上海外で居住する場合は国内に住所を有しないものとして扱うとしたうえで、出国の期間・目的・出国中の居住の状況などから国内に住所があると判断された場合は課税されると説明している。
住民票の有無は、判断材料の一つにとどまる。どこで暮らし、家族がどこにいて、どれくらいの期間の予定で出国したのか。こうした事実が見られる。
住民票を残したまま出国すると、住所があるものとして扱われうる
地方税法は、市町村内に住所を有する個人を、住民基本台帳法の適用を受ける人についてはその市町村の住民基本台帳に記録されている者としている。住民票は、住民税の課税の出発点になる。
品川区は、海外へ転出するのに転出の手続きをしなければ、区内に居住しているものとみなして住民税を課税すると案内している。1年以上海外に居住していることを証明できれば課税を取り消すことは可能としつつ、1年以上出国する場合は転出の届出を忘れないよう求めている。
住民票を残すかどうかは、住民税だけの問題ではない。
- 国民健康保険:江戸川区は、住民票を異動しない場合、海外に滞在している期間も国民健康保険料がかかると案内している
- 国民年金:日本年金機構は、海外に居住すると国民年金の強制加入被保険者ではなくなり、日本国籍なら任意加入できると案内している
- 郵便物・通知:市区町村や税務署からの通知の送り先をどうするか
「念のため住民票は残しておく」という判断は、住民税や保険料の請求が続く判断でもある。逆に、住民票を除いても、実際の生活の本拠が日本にあれば課税されうる。どちらの場合も、手続きと実態を合わせておくことが前提になる。
また、日本に自宅を残す場合も確認が要る。地方税法には、市町村内に住所がなくても家屋敷などを持つ個人に均等割を課す規定がある。海外に住む人にどう適用されるかは、自宅のある市区町村に確認したい。
出国後の納付は、納税管理人・一括納付・口座振替から選ぶ
出国した年の住民税を払う方法は、主に次の3つだ。
- 出国前に全額を納める:すでに納税通知書が届いているなら、出国前にまとめて納付する
- 口座振替にしておく:品川区や板橋区は、出国前に口座振替を手続きしておく方法を案内している
- 納税管理人を定めて届け出る:日本に住む家族などを納税管理人にし、通知書の受け取りと納付を任せる
地方税法は、納税義務を負う市町村内に住所などを持たない納税義務者に、納税管理人を定めて市町村長に申告することを求めている。市町村長の認定を受けて納税管理人を定めない方法も規定されている。
納税管理人は個人でも法人でもよいとする区もある。届け出ると、納税通知書や納付書は納税管理人あてに送られる。中央区は、事情があって納税管理人を申告できない人には、出国先の住所を指定してエアメールで通知する方法などもあると案内している。
注意したいのは、出国前に全額を納めても、翌年度の住民税が課される場合があることだ。中央区は、国外転出した日によっては翌年度も課税されることがあるとして、納税管理人申告書の提出を求めている。1月上旬に出国した場合などは、その年の1月1日の住所で課税されるためだ。
なお、所得税の納税管理人は税務署へ、住民税の納税管理人は市区町村へ、それぞれ別に届け出る。所得税の確定申告が必要な人は、両方の届出を出国前に済ませておきたい。
日本から役員報酬を受ける社長は、特別徴収の続け方を会社と確認する
日本の会社の役員を続けたまま海外に住む場合、住民税の払い方にはもう一つの選択肢がある。会社の給与からの特別徴収を続ける方法だ。
品川区は、出国後も特別徴収が継続される場合と、退職などで継続できなくなる場合を分けて案内している。板橋区も、転勤などで国外転出する場合に、引き続き給与から差し引くか出国時の給与から一括徴収するかは勤務先に確認するよう求めている。
会社を辞めて出国する場合は、次のような扱いになる。
- 6月1日〜12月31日に給与の支払いがなくなる:本人の申出があれば、残りの住民税を最後の給与や退職金から一括で差し引ける
- 1月1日〜4月30日に給与の支払いがなくなる:残りの住民税を一括で差し引く(支払われる給与などが残額を超える場合)
- 一括で差し引かない場合:残りは普通徴収に切り替わり、本人(または納税管理人)が納める
会社側では、特別徴収をやめるときに「給与所得者異動届出書」を市区町村に出す。社長自身が会社の手続きを担っていることも多いため、本人としての手続きと、会社としての手続きの両方を一覧にしておくと抜けが減る。
役員退職金を受け取る年と出国が重なる場合も注意が要る。退職金にかかる住民税は、ほかの所得と分けて、支払を受ける年の1月1日の住所地で課される別の仕組みになっている。退職の時期と金額の考え方は役員退職金の計算方法で整理しているが、出国と重なる場合の扱いは税理士に確認してほしい。
住民税がかからなくなっても、日本に残る税金と手続きがある
翌年度から住民税が課されなくなると、日本の税金がなくなったように感じるかもしれない。実際には、海外に住んでも日本に残るものは多い。
- 所得税:非居住者になっても、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)には課税される。日本の会社から受ける役員報酬は、国外で勤務していても原則として20.42%で源泉徴収される
- 確定申告:日本の不動産の賃貸収入や売却益などがあれば、非居住者でも日本で申告が必要になる場合がある
- 国外転出時課税:出国時に有価証券等(自社株を含む)が1億円以上あれば、含み益に課税される制度の対象になりうる
- 社会保険:日本の会社から報酬を受け続ける役員は、健康保険・厚生年金の加入が続くことがある
- 住む国の税金:現地の制度で、日本の所得も含めて課税されることがある
役員報酬の源泉徴収や居住者・非居住者の判定は非居住者の役員報酬と源泉徴収で、出国時の株式の課税は出国税(国外転出時課税)で詳しく扱っている。
住民税は、海外移住で変わる税金のうちごく一部にすぎない。社長個人の手取りをどう考えるかは、社長の手取りを増やす方法で整理した「お金の出口」の考え方と同じく、税金・社会保険・手続きをまとめて見る必要がある。
住民税を理由に海外移住を考えるのが向かない人・注意が必要なケース
次のような場合は、住民税の扱いを前提に計画を立てるのは慎重にしたほうがよい。
- 家族が日本に住み続ける、または日本の自宅で暮らす期間が長い:生活の本拠が日本にあると判断されやすい
- 1年未満で帰国する可能性がある:短期の出国は住所が国内にあるものとして扱われうる
- 出国の目的が観光や一時的な滞在に近い:品川区は、ワーキング・ホリデーでの出国は「居住」ではなく「旅行」とみなし課税すると案内している
- 住民票だけ移して、生活は日本と行き来する予定:手続きと実態がずれると、あとから課税されうる
- 出国後の書類を受け取り、期限どおりに払う体制がない:延滞金や督促の原因になる
海外に住むかどうかは、家族・仕事・生活の理由で決めるものだ。住民税は、その決定に合わせて手続きを整える対象であり、移住の理由にするものではない。
よくある疑問
Q. 海外移住したら、住民税はいつまで払いますか?
出国した年の1月1日に日本に住所があれば、その年度分(前年の所得に対する住民税)は出国後も最後の納期まで納めます。翌年の1月1日に国内に住所がなく、生活の本拠も海外にあると判断されれば、翌年度分は原則として課されません。住所の判断は市区町村が事実にもとづいて行います。
Q. 住民票を残したまま海外に住むと、住民税はどうなりますか?
住民基本台帳に記録されていれば、その市区町村に住所がある人として課税の対象になりえます。品川区は、転出の手続きをしなければ区内に居住しているものとみなして課税すると案内しています。国民健康保険料などの請求が続くこともあるため、1年以上出国する場合は転出届を出すかどうかを含めて市区町村に確認してください。
Q. 納税管理人を置かずに出国するとどうなりますか?
納税通知書が本人に届かず、公示送達が行われることがあります。その後、納期限までに納付がなければ督促状が出され、延滞金が加算されることがあります。日本に住む家族などを納税管理人として届け出るか、口座振替や出国前の全額納付を選ぶかを、出国前に市区町村と相談して決めておくのが確実です。
「いつ出るか」より「1月1日にどこにいて、誰が払うか」
住民税は、1月1日の住所と前年の所得で決まる。この仕組みを知っていれば、出国後に届く通知書に驚くことはない。
大切なのは、出国した年の分を誰が受け取り、どこから払うかを決めてから日本を出ることだ。そして翌年度以降は、住民票と生活の実態が一致しているかで扱いが決まる。
出国した年の6月に届く納税通知書は、誰の手元に届くことになっているだろうか。その答えが決まっていなければ、それが出国前に最初に整える手続きになる。